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81-7

「ナノマシンを制御しているのはお前か!」


 単刀直入に問う。

 すると魔女は意外そうな声色で答えた。


「あら、そこまで気づいていたの。ただの遺跡探索に来たわけじゃなかったのね。それにしても、この時代の人間がナノマシンの存在を知っているなんて……」


 やはりナノマシンに関係のある人物だ。

 俺の勘が正しければ、この魔女がナノマシンを制御している。


「今すぐナノマシンを止めるんだ!」

「どうして?」

「不死身の機械人形が人々を襲っているんだ」

「フフッ。それは愉快」


 魔女が笑う。

 この魔女は悪人だ。

 少なくとも善人ではないのは今の返事ではっきりわかった。


 今度はプリシラが必死にうったえかける。


「あの、あの、王都のみなさんが困っているんです。あなたが悪さをしているのならすぐにやめてくださいっ」

「嫌よ。私、悪いことするの大好きなの」


 こちらを振り向いた魔女がガラス越しに妖艶な笑みを浮かべた。

 それを見たプリシラがむっと眉間にしわを寄せる。


「あなた、悪い人ですねっ。悪人はアッシュさまが成敗します!」

「そのお隣の彼がアッシュくん? 彼はあなたのなんなのかしら?」

「アッシュさまはわたしの――」


 そこでいったん区切ってから続ける。

 そして渾身のドヤ顔で言った。


「ご主人さまですっ」

「ご主人さま? てっきり彼氏かと思ったわ」

「か、彼氏!? そ、それは恋人という意味でしょうか!?」


 プリシラが頬を染めて目をまんまるに見開く。

 動揺している。

 それから落ち着いたプリシラは目を細め、うっとりとした顔になる。


「そ、そう見えちゃいますか……? やっぱり」

「冗談よ」

「がーん!」


 茶番はここまでだ。

 俺は魔書『オーレオール』を片手持ち、もう片方の手を魔女にかざす。


「ここを開けろ。さもなくばお前もろとも扉を破壊する」

「……それはまさか『オーレオール』」


 魔女の表情が険しくなる。

 こいつ、『オーレオール』を知っているのか。


「アッシュくん。あなた『稀代の魔術師』を知っているわね」

「俺がその後継者だ」

「……フフッ。それは面白い。これって運命かしら」


 魔女が俺を真似するかのように手をかざしてくる。

 ガラスの扉が開く。

 対峙する俺と魔女。


「私の名前はターナ。人々からは『冬の魔女』と呼ばれているわ」

「アッシュ・ランフォードだ」

「アッシュくん。私、今、あなたをむごたらしく殺したい気分なの。いいわよね」

「もう一度言う。ナノマシンを止めろ」

「嫌よ」


 互いにかざした手が魔力で青く光る。

 そしてほぼ同時に、互いの手から魔力の弾丸が放たれた。

 二つの弾丸が衝突し、破裂する。


 視界を真っ白に染める閃光。

 踏ん張っていないと吹き飛ばされかねない爆風。

 プリシラが俺に腰に腕を回して抱きついている。


 俺は目を閉ざして腕で顔をかばい、閃光と爆風に耐える。

 みっつかよっつ数える短い時間で、その二つは収まった。

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