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「ナノマシンを制御しているのはお前か!」
単刀直入に問う。
すると魔女は意外そうな声色で答えた。
「あら、そこまで気づいていたの。ただの遺跡探索に来たわけじゃなかったのね。それにしても、この時代の人間がナノマシンの存在を知っているなんて……」
やはりナノマシンに関係のある人物だ。
俺の勘が正しければ、この魔女がナノマシンを制御している。
「今すぐナノマシンを止めるんだ!」
「どうして?」
「不死身の機械人形が人々を襲っているんだ」
「フフッ。それは愉快」
魔女が笑う。
この魔女は悪人だ。
少なくとも善人ではないのは今の返事ではっきりわかった。
今度はプリシラが必死にうったえかける。
「あの、あの、王都のみなさんが困っているんです。あなたが悪さをしているのならすぐにやめてくださいっ」
「嫌よ。私、悪いことするの大好きなの」
こちらを振り向いた魔女がガラス越しに妖艶な笑みを浮かべた。
それを見たプリシラがむっと眉間にしわを寄せる。
「あなた、悪い人ですねっ。悪人はアッシュさまが成敗します!」
「そのお隣の彼がアッシュくん? 彼はあなたのなんなのかしら?」
「アッシュさまはわたしの――」
そこでいったん区切ってから続ける。
そして渾身のドヤ顔で言った。
「ご主人さまですっ」
「ご主人さま? てっきり彼氏かと思ったわ」
「か、彼氏!? そ、それは恋人という意味でしょうか!?」
プリシラが頬を染めて目をまんまるに見開く。
動揺している。
それから落ち着いたプリシラは目を細め、うっとりとした顔になる。
「そ、そう見えちゃいますか……? やっぱり」
「冗談よ」
「がーん!」
茶番はここまでだ。
俺は魔書『オーレオール』を片手持ち、もう片方の手を魔女にかざす。
「ここを開けろ。さもなくばお前もろとも扉を破壊する」
「……それはまさか『オーレオール』」
魔女の表情が険しくなる。
こいつ、『オーレオール』を知っているのか。
「アッシュくん。あなた『稀代の魔術師』を知っているわね」
「俺がその後継者だ」
「……フフッ。それは面白い。これって運命かしら」
魔女が俺を真似するかのように手をかざしてくる。
ガラスの扉が開く。
対峙する俺と魔女。
「私の名前はターナ。人々からは『冬の魔女』と呼ばれているわ」
「アッシュ・ランフォードだ」
「アッシュくん。私、今、あなたをむごたらしく殺したい気分なの。いいわよね」
「もう一度言う。ナノマシンを止めろ」
「嫌よ」
互いにかざした手が魔力で青く光る。
そしてほぼ同時に、互いの手から魔力の弾丸が放たれた。
二つの弾丸が衝突し、破裂する。
視界を真っ白に染める閃光。
踏ん張っていないと吹き飛ばされかねない爆風。
プリシラが俺に腰に腕を回して抱きついている。
俺は目を閉ざして腕で顔をかばい、閃光と爆風に耐える。
みっつかよっつ数える短い時間で、その二つは収まった。




