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「アタシ、よかった。アッシュたちと出会えて」
涙を流しながらユリエルは笑顔だった。
彼女の涙を今すぐにでも拭いにいきたい。
俺はいてもたってもいられず、彼女の部屋を訪れた。
「アッシュ……」
「ユリエル」
泣きはらした彼女を抱きしめる。
彼女は最初、身体をこわばらせていたが、すぐに肩の力を抜いた。
俺に身体をゆだねてくれた。
「お前たちといられた日々、楽しかった。この思い出を忘れずにいるからな」
「俺もユリエルを忘れない」
思っていたより彼女の身体は小さかった。
俺の身体の内側にすっぽり収まる。
その小さな身体で彼女は一人、戦ってきた。
これからも彼女は戦う。
その決断が正しいのか俺にはわからない。
ただ、彼女の意思は尊重すべきだと思った。
別れの日。
俺とスセリ、プリシラ、マリア、ベオウルフ、ユリエルは鏡を介して精霊界を訪れた。
俺たちの前には精霊竜がいる。
「ユリエル。本当によいのですね」
「はい。アタシの居場所はあなたのおそばです」
「そうですか」
精霊竜の口調からやさしさと悲しさの両方が伝わってきた。
「次に人間界へとつながるのは数百年は先。ユリエル。不滅の命を持つあなたはいつかまた人間界に戻れるでしょうが、そのとき彼らはいません」
「承知しています」
「ワシはいるぞ」
「お前はどうでもいい」
「のじゃ!?」
ずっこけるスセリ。
みんな笑う。
「お別れのあいさつをなさい」
精霊竜に促されてユリエルは精霊竜のそばに寄り、振り返って俺たちのほうを向く。
「プリシラ、ベオ。アタシの友達になってくれてありがとう」
「ううう……」
こらえきれず涙ぐむプリシラ。
彼女肩に手をやるベオウルフ。
ベオウルフも、このときばかりは悲しげな顔をしている。
「マリア。アタシもお前みたいなお嬢さまになったほうがいいかな?」
「ユリエルはユリエルのままでいいですのよ」
「そうか」
「ふふっ。でも、わたくしのようになりたいとはあなた、見る目がありますわよ」
マリアは得意げな顔をした。
「稀代の――いや、スセリ。お前とは『またな』だな」
「まあ、数百年などワシらにとっては大した時間でもなかろう」
「写真、ありがとうな」
「恩は売るものじゃからな」
そして最後に俺を見る。
「アッシュ。最初に出会えた人間がお前でよかった」
白い歯を見せて屈託なく笑うユリエル。
俺は照れくさくなって頬をかいた。
「ふしぎなんだが、なんだかお前ともこれで最後じゃない気がするんだ。だから、お前にもこう言わせてもらう。――またな」
「……ああ。また会おう」




