表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

558/842

80-4

「アタシ、よかった。アッシュたちと出会えて」


 涙を流しながらユリエルは笑顔だった。

 彼女の涙を今すぐにでも拭いにいきたい。

 俺はいてもたってもいられず、彼女の部屋を訪れた。


「アッシュ……」

「ユリエル」


 泣きはらした彼女を抱きしめる。

 彼女は最初、身体をこわばらせていたが、すぐに肩の力を抜いた。

 俺に身体をゆだねてくれた。


「お前たちといられた日々、楽しかった。この思い出を忘れずにいるからな」

「俺もユリエルを忘れない」


 思っていたより彼女の身体は小さかった。

 俺の身体の内側にすっぽり収まる。

 その小さな身体で彼女は一人、戦ってきた。


 これからも彼女は戦う。

 その決断が正しいのか俺にはわからない。

 ただ、彼女の意思は尊重すべきだと思った。



 別れの日。

 俺とスセリ、プリシラ、マリア、ベオウルフ、ユリエルは鏡を介して精霊界を訪れた。

 俺たちの前には精霊竜がいる。


「ユリエル。本当によいのですね」

「はい。アタシの居場所はあなたのおそばです」

「そうですか」


 精霊竜の口調からやさしさと悲しさの両方が伝わってきた。


「次に人間界へとつながるのは数百年は先。ユリエル。不滅の命を持つあなたはいつかまた人間界に戻れるでしょうが、そのとき彼らはいません」

「承知しています」

「ワシはいるぞ」

「お前はどうでもいい」

「のじゃ!?」


 ずっこけるスセリ。

 みんな笑う。


「お別れのあいさつをなさい」


 精霊竜に促されてユリエルは精霊竜のそばに寄り、振り返って俺たちのほうを向く。


「プリシラ、ベオ。アタシの友達になってくれてありがとう」

「ううう……」


 こらえきれず涙ぐむプリシラ。

 彼女肩に手をやるベオウルフ。

 ベオウルフも、このときばかりは悲しげな顔をしている。


「マリア。アタシもお前みたいなお嬢さまになったほうがいいかな?」

「ユリエルはユリエルのままでいいですのよ」

「そうか」

「ふふっ。でも、わたくしのようになりたいとはあなた、見る目がありますわよ」


 マリアは得意げな顔をした。


「稀代の――いや、スセリ。お前とは『またな』だな」

「まあ、数百年などワシらにとっては大した時間でもなかろう」

「写真、ありがとうな」

「恩は売るものじゃからな」


 そして最後に俺を見る。


「アッシュ。最初に出会えた人間がお前でよかった」


 白い歯を見せて屈託なく笑うユリエル。

 俺は照れくさくなって頬をかいた。


「ふしぎなんだが、なんだかお前ともこれで最後じゃない気がするんだ。だから、お前にもこう言わせてもらう。――またな」

「……ああ。また会おう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ