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「ワシのアッシュコレクションを見たい奴はおるか? アッシュの普段お目にかかれぬ『あーんな顔』や『こーんな顔』を見られるのじゃ」
「ぜひ拝見させてくださいましっ」
「アッシュさまコレクション……! 見たいですっ!」
「僕にも見せてください」
「や、やめてくれ……」
わらわらとスセリに寄っていくプリシラたち。
とにかく、端末に写真機能があるのはわかった。
そろそろ花火が打ち上がる時刻だ。
「俺のコレクションを見てる場合じゃないぞ。そろそろ花火が打ち上がる」
「ど、どきどきしてきました……」
スセリが端末を持ったまま俺たちから少し離れる。
「花火が打ち上がった瞬間に写真を撮ってやるのじゃ」
「あ、それいいですわね」
「でも、それだとスセリさまは写真に写らないのでは?」
「ワシのことは気にせず、若い者たちで写るがよい」
スセリの前に一列に並ぶ。
スセリが端末を構える。
ユリエルを中央に。
その左右にプリシラとベオウルフ。
両端に俺とマリア。
「カメラに収まらん。ほれほれ、もっとくっつくのじゃ」
さらに密着する。
「笑顔じゃぞ。『はい、チーズ』で合図するからの」
「その『はい、チーズ』とはなんですか?」
「ワシにも意味はわからんが、旧人類はこの合図で写真を撮っておったのじゃ」
「変わってるんだな。人間って」
もう、いつ花火が打ち上がってもおかしくない。
「わ、わたくし、お化粧を直してもよろしいかしら」
「おいおい。そんな時間ないぞ」
――と、そのときだった。
世界の闇が瞬時にして払拭され、まぶしくなる。
時間差で大きな爆発音が空に響く。
俺たちは一斉に悲鳴を上げた。
そして全員、背後を振り返った。
赤、緑、青……。
いろんな色の火の粒がまじりあって、空に大輪の花を咲かせていた。
次々と花火が打ち上がる。
どーんという音を鳴らしながら火の花が咲いては散っていく。
夜の景色は色鮮やかに染め上げられていた。
幻想的な光景。
今だけ別世界にいるかのような気分だ。
ユリエルとプリシラとベオウルフは空に咲く花火に見入っていた。
マリアが俺に寄り添う。
「きれいですわね」
「ああ」
俺たちはしばしの間、言葉数少なく花火を堪能した。
やがて花火は終わった。
「きれいだったねー」
「あれってどういう原理なんだろう。アッシュさんはご存知ですか?」
「魔法じゃないのか? 前にフーガさんも魔法で花火を上げてたし」
ユリエルたち仲良し三人組はわいわいと語り合っている。
それはともかく、写真は撮れたのだろうか。
俺とマリアは数歩離れたところにいたスセリのところへ行く。
「写真、見せてくれよ」
「のじゃじゃじゃ……」
「どうした?」
スセリは渋面を浮かべている。




