79-5
歩き疲れた俺とユリエルは噴水のある公園で休憩した。
時刻は夕方。
西へ沈みつつある太陽が街を茜色に染めてあげている。
夕方ということもあり、それほど人はいない。
街も家路に向かう人々ばかりになっていた。
あっという間に時間が過ぎた。
ユリエルとのデートは新鮮で楽しかった。
「さっき食べた『タイヤキ』おいしかったな」
タイヤキは小麦粉を練って焼いた生地の中に、甘く煮てつぶした豆を入れたお菓子。
実際にタイという魚が入ってるわけではなく、その魚の姿をした型に入れて焼くからタイヤキなのだ。
このお菓子、科学で栄えていた旧人類の時代からあるらしいのだ。
「『あんこ』っていうのもおいしかったけど、チョコレートを入れてもおいしそうじゃないか? アッシュ」
「実際、チョコレート入りのタイヤキを売っている店もあるみたいだぞ」
「へー、そうなのか」
「今度またデートするときに食べにいこうな」
「今度……」
ユリエルの顔が曇る。
俺とのデートが嫌だ――というわけではなさそうだ。
やはりユリエルはなにか悩みごとを隠している。
「『今度』は、ないんだ」
ユリエルが俺から顔をそらしていった。
つらそうな表情をしている。
「アタシ、精霊界に帰ることにしたんだ」
「精霊界にはほとんど毎日帰ってるだろ? ブラックマターを狩りに」
「……精霊竜さまが言ってた。まもなく精霊界と人間界のつながりが途切れるって」
「えっ!?」
そんな話、はじめて聞いた。
ユリエルによると、精霊界と人間界は近づいたり離れたりを周期的に繰り返しているという。
今は鏡を通して行き来できるほど近づき合っているが、離れる時期が来て、行き来ができなくなるというのだ。
「精霊竜さまはアタシに選ばせてくれた。精霊界と人間界、どっちに残るか」
それでユリエルは精霊界を選んだ。
その選択がたやすいものではなかったのは彼女の表情で容易に分かった。
何度も葛藤があったのだ。
俺が精霊剣承を放棄したとき、精霊竜は自分一人で精霊界を管理すると言っていた。
しかし、ユリエルはそうさせるつもりはなかったのだ。
彼女にとって精霊竜は親のようなものなのかもしれない。
だから俺は安易に「人間界に残ってくれ」とは言えなかった。
「アタシには使命がある。無限に生まれるブラックマターを狩るっていう。それに、精霊竜さまをひとりぼっちにはさせたくない。今までありがとな、アッシュ。アタシにやさしくしてくれて」
泣きそうな笑顔を俺に向けるユリエル。
そんな笑顔がたまらなくつらい。
無いのだろうか。
みんなが幸せになる方法は。




