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そういう魂胆か。
フレデリカは悠々自適な暮らしをにやにやと妄想している。
「ステキな王子さまを見つけてやるんだー」
「が、がんばってくれ……」
それからというもの宿屋『ブーゲンビリア』はますます繁盛していた。
お菓子作り大会で優勝して名が売れたというのもあるし、看板娘のフレデリカ目当ての客も少なからずいるという。
彼女いわく『かつてないモテ期』とのこと。
とはいえ、あまりうれしくはないらしい。
彼女にとって庶民は眼中にない。
働かずに楽して暮らせる男性が彼女にとっての条件なのだ。
それと、彼女が焼いたお菓子も売り出して、これも大人気であるという。
そしてこれもフレデリカにとってはうれしくないことであった。
お菓子を焼くという仕事が増えてしまったから。
「うん。おいしいな。フレデリカとかいうやつのお菓子」
そして俺は今、ツノの少女ユリエルと共に『ブーゲンビリア』を出たところであった。
話題のお菓子をさっそく買ったのだ。
「デートっておいしいものを食べながら街を歩くことなのか?」
「まあ、だいたいはそうだと思う」
約束どおり、俺とユリエルは繁華街でデートしている。
デートというより、仲の良い友達と街で遊ぶというほうが適切だが。
俺にもユリエルにも互いに恋愛感情は抱いていない……はず。
デートをしている間、ユリエルはときおり俺の顔を盗み見てくる。
なにかを言おうとしているのはわかる。
言うか言うまいか悩んでいる。
俺は彼女が自主的に言ってくれるのを待つことにして、盗み見られているのに気付いていないフリに徹していた。
「楽しいか?」
「結構楽しいな。友達と遊ぶのは」
ユリエルがにこりと笑う。
ふだん不愛想だから、その笑顔が余計にかわいく見える。
夢で会った頃、あからさまに敵意をむき出しにされていたのがウソのよう。
「人間界での暮らしには慣れてきたか?」
「プリシラやベオがいろいろと教えてくれるからな。物を買うときはお金っていうのがいるんだろ?」
そ、そこからだったのか……。
「しっかし、人間界には人間がうじゃうじゃいるな」
「ここは王都だから特別多いんだ。他の小さな町や村はこんなにいないぞ」
「ふーん。そうなのか」
ユリエルは桃色のワンピースを着ている。
いっぱいひらひらがついてて、リボンがあって、スカートがひざまであるかわいい服だ。
とても彼女に似合っている。
大剣を抱えているときよりもよほど。
最初、ユリエルは「どうせ似合ってないだろ。わかってるんだ」と自虐的だったが、俺が「似合ってるよ」と正直に答えると照れくさそうに「そ、そうか……。ならよかった……」とはにかんだのであった。




