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79-3

 そういう魂胆か。

 フレデリカは悠々自適な暮らしをにやにやと妄想している。


「ステキな王子さまを見つけてやるんだー」

「が、がんばってくれ……」



 それからというもの宿屋『ブーゲンビリア』はますます繁盛していた。

 お菓子作り大会で優勝して名が売れたというのもあるし、看板娘のフレデリカ目当ての客も少なからずいるという。

 彼女いわく『かつてないモテ期』とのこと。


 とはいえ、あまりうれしくはないらしい。

 彼女にとって庶民は眼中にない。

 働かずに楽して暮らせる男性が彼女にとっての条件なのだ。


 それと、彼女が焼いたお菓子も売り出して、これも大人気であるという。

 そしてこれもフレデリカにとってはうれしくないことであった。

 お菓子を焼くという仕事が増えてしまったから。


「うん。おいしいな。フレデリカとかいうやつのお菓子」


 そして俺は今、ツノの少女ユリエルと共に『ブーゲンビリア』を出たところであった。

 話題のお菓子をさっそく買ったのだ。


「デートっておいしいものを食べながら街を歩くことなのか?」

「まあ、だいたいはそうだと思う」


 約束どおり、俺とユリエルは繁華街でデートしている。

 デートというより、仲の良い友達と街で遊ぶというほうが適切だが。

 俺にもユリエルにも互いに恋愛感情は抱いていない……はず。


 デートをしている間、ユリエルはときおり俺の顔を盗み見てくる。

 なにかを言おうとしているのはわかる。

 言うか言うまいか悩んでいる。


 俺は彼女が自主的に言ってくれるのを待つことにして、盗み見られているのに気付いていないフリに徹していた。


「楽しいか?」

「結構楽しいな。友達と遊ぶのは」


 ユリエルがにこりと笑う。

 ふだん不愛想だから、その笑顔が余計にかわいく見える。

 夢で会った頃、あからさまに敵意をむき出しにされていたのがウソのよう。


「人間界での暮らしには慣れてきたか?」

「プリシラやベオがいろいろと教えてくれるからな。物を買うときはお金っていうのがいるんだろ?」


 そ、そこからだったのか……。


「しっかし、人間界には人間がうじゃうじゃいるな」

「ここは王都だから特別多いんだ。他の小さな町や村はこんなにいないぞ」

「ふーん。そうなのか」


 ユリエルは桃色のワンピースを着ている。

 いっぱいひらひらがついてて、リボンがあって、スカートがひざまであるかわいい服だ。

 とても彼女に似合っている。


 大剣を抱えているときよりもよほど。

 最初、ユリエルは「どうせ似合ってないだろ。わかってるんだ」と自虐的だったが、俺が「似合ってるよ」と正直に答えると照れくさそうに「そ、そうか……。ならよかった……」とはにかんだのであった。

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