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78-1

 ラピス王女は腰に結んでいたロープをほどき、俺に渡す。

 俺はそのロープを自分の腰に巻いて強く結んだ。

 すると、ラピス王女がいきなり俺に抱きついてきた。


「ラピス王女!?」

「はい?」


 笑顔のまま首をかしげるラピス王女。

 あ、そうか。俺といっしょに引き上げてもらうために抱きついたんだな。

 だとしても、一言言ってからにしてもらいたい……。


 似たようなやり取りを3度目ほどしている気がする。

 この王女さま。妙に距離感が近いな……。

 一国の王女というのを自覚していない。


 俺もラピス王女を落とさないよう、彼女の背中に腕を回した。

 ラピス王女がくすくすと笑う。


「くすぐったいです」

「が、がまんしてください……」


 ラピス王女はくいくいくいっと4回ロープを引っ張る。

 どうやらこれは『引き上げてくれ』の合図のようだ。


 合図が伝わったらしく、ロープが引っ張られていく。

 地面に垂れていたロープがぴんと緊張すると、いよいよ俺とラピス王女は地面を離れて上に引き上げられていった。

 暗闇の中で抱き合う俺とラピス王女。


「あなたたちは毎日こんな冒険をしているのですね」


 うらやましげな口調。


「わたくし、城の中だけでなく、外の世界をもっと見てみたいのです」

「貴族や他国の王族たちとの社交で外には出ているのでは?」

「そういうのではありません。もっとこう、恐ろしい竜と戦ったり、生きて帰った者はいない迷いの森を冒険したり、そういうのがしたいのです」


 物語の主人公を夢見る王女さま。


 物語は主人公たちが報われて終わる。

 しかし、現実の冒険は少なからぬ者たちが冒険の半ばで果てていく。

 その多くが無意味で無慈悲な終わりかただ。


「今回の冒険でがまんしてください」

「わたくし、がまんは苦手なのです」


 これはまたお忍びで遊びにくるな……。

 王族とつながりができたのをよろこぶべきだろう、と俺は前向きに考えたのだった。

 ロープで引っ張り上げられた俺たちはプリシラとマリアのもとまで帰ってこれた。


「アッシュしゃま! おケガはありませんか!?」


 動揺のあまり『しゃま』と言うプリシラ。


「ちょっとすりむいたが、骨は折れてないし平気だ」

「よ、よかったですー」


 プリシラが涙ぐむ。

 マリアも心底安心したようすだ。


「アッシュ。あなた、おっちょこちょいですわよ」

「すまない。助けてくれてありがとう」

「それはおてんば王女さまに言ってくださいまし」


 王女さまは得意げな顔をしている。


「そのことなんだが……。助けもらっておきながら文句は言いたくはないんだが、王女さまを救助に送ったのはちょっと不用心じゃないか?」

「消去法ですわ」


 ロープを引き上げる役目は腕力のある半獣のプリシラにしかできない。

 だから俺のもとに行くのはマリアかラピス王女のどちらかになる。

 なら、マリアが救助に行くべきだったのでは――と思ったが、そうはいかなかったらしい。


「ラピス王女ったら『あなたは胸がつっかえるからいけません』とおっしゃいましたのよ!」


 マリアは憤慨している。

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