77-7
「と、とにかく、先に進もう」
俺は話を切り上げようと一歩踏み出した。
――そのときだった。
ずるり。
突然、足を滑らせた俺はしりもちをついた。
しかも、踏み出した場所は傾斜になっていたらしい。
突然の出来事に俺はそのままなすすべなく坂を滑り落ちていく。
「アッシュ!」
「アッシュさま!?」
背後から俺を呼ぶプリシラたちの声。
暗闇でわけのわからない中、俺は抵抗もできず坂を滑っていく。
そして坂を滑り終え、固い地面にしたたかに尻を打った。
「いたたたた……」
よろよろと立ち上がり、尻をさする。
周囲は真っ暗闇で、視界が完全に閉ざされている。
とりあえず俺は光源の魔法をもう一度唱えて周囲を明るくした。
まさか地面に穴が空いていたなんて……。
動揺していたとはいえ、冒険者にあるまじき不注意だった。
命が助かっただけ幸運なのだろう。
「アッシュさまー!」
頭上からかすかに声が聞こえてくる。
俺が落ちてきた穴からプリシラたちが俺を呼んでいた。
「おーい! 聞こえるなら返事をしてくれー!」
俺は頭上にある穴に向かって叫ぶ。
「アッシュさまー! 返事をしてくださーい!」
俺の声は届いていないらしく、あちらも返事を要求してくる。
まずいな。
落ちてきた穴を逆戻りしようにも、手が届かない。
せめて無事を知らせる返事だけはしたいのだが……。
「きゃあああっ!」
そのとき、穴から女性の悲鳴が聞こえてきた。
まさか、誰かが滑り降りてきている!?
俺は腰を深くして身構える。
「きゃあっ」
穴から飛び出てきたのはラピス王女だった。
ラピス王女が俺の真下に落ちてくる。
俺はうまい具合に彼女を抱きかかえて受け止めた。
「まあ、アッシュ・ランフォード。ご無事でよかったです」
「ラ、ラピス王女……」
頭痛がする……。
たぶん、俺を助けに穴に飛び込んだのだろう。
この人、自分の立場を理解しているのだろうか……。
「城の人たちからよく『おてんば王女さま』って呼ばれませんか?」
「どうしてそれをご存知なんです?」
やっぱり。
よく見ると、ラピス王女の腰にロープが巻きつけられていた。
ロープは穴の中から垂れている。
「このロープ、もしかして――」
「上でマリアさんたちが握っています」
ラピス王女がロープを三回引く。
これが自分たちの無事を知らせる合図なのだろう。
今度はあちらからロープが三回引かれた。
「マリアさんたちがロープを頑丈な岩に結び付けてくれるでしょう」
そうすれば、ロープで穴をたぐって上に戻れる。
「とりあえず助かりました。ただ、ラピス王女。あまり無茶はしないでください」
「わかりました」
にこにこ笑うラピス王女。
ぜんぜんわかっていないのがわかった。
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