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76-1

 叶えたい願いと言われても……。

 まったく欲望がないと言えばウソになるが、いざ具体的になにを叶えたいかと問われると困ってしまう。

 悩んでいるとマリアがドヤッとした顔でこう言ってきた。


「わたくしと結婚する――ですわよね?」

「いや、それは……」

「ああ、そうでしたわ。これは願うまでもなく叶うのですわよね」


 マリアは「おーっほっほっほ」と高笑いした。

 それが言いたかっただけだろ……。


「今のは冗談ですわよ。プリシラやスセリさまとのアッシュを射止める戦いは正々堂々と行うつもりですもの。わたくしはわたくしの魅力でアッシュを振り向かせてみせますわ」


 マリアは急に真剣な面持ちになったかと思うと、俺の手を握る。


「だからアッシュ。スセリさまを止めてくださいまし。スセリさまは善人ではありませんけれど、悪人でもありませんもの」

「マリア……」

「世界を混乱に陥れるようなまねをするなんて、あの人らしくありませんわ。きっと事情があるのでしょう。早まったことをする前にアッシュが思いとどまらせますのよ。いいですわね?」

「……わかった」


 善人でも悪人でもない――とは、スセリをうまく表現しているな。

 だが、今のスセリは悪になろうとしている。


 スセリの野望を阻止しなくてはならない。すべてが手遅れになる前に。

 そのためにも自分の願いを考えないと。


「願いごとなんだが、みんなが仲良く暮らせる世界――っていうのはどうだ?」

「漠然としすぎではありませんこと?」

「おそらくそれでは願いを言ったことにはなるまい」

「そうだわっ」


 なにか閃いたらしいノノさんがぽんっと手を合わせる。


「私の家を新しくしてほしい、ってお願いしてちょうだい」

「ノノさんの家ですか」


 あの足の踏み場もない、散らかり放題の家を思い出す。

 美人なノノさんからは想像もできないほどひどい有様の家だったな。


 かつては一人暮らしだったノノさんは今、孤児だったネネとその妹二人を引き取って四人暮らしをしている。

 たしかに、あの家で四人暮らすのは少々狭いかもしれない。


 ネネのことを思い出す。

 親のいない彼女は、大人たちにまけないためにがんばっていた。


 あいつ、妹たちと楽しく暮らしているだろうか。

 どうかしあわせな日々を送っていてもらいたい。


「わかりました。いざとなったらその願いを言います」

「やったわっ。うふふ。楽しみね、アスカノフちゃん」

「そうであるな」

「アスカノフちゃんが入れるほどおっきな家をお願いしてね。アッシュちゃん」

「それはお城でもないと無理かと……」


 とにかく叶える願いは決まった。

 俺はノノさんたちに別れを告げ、精霊剣があるという森へと向かった。

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