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無限の命を得たこの少女は、なおも求めている。
どうしてそこまで求めるのか。
俺は理解できなかった。
「生まれ、残し、死ぬ――その連鎖はほんのちょっとした干渉で台無しになる。ワシらが生まれてくる前、はるか昔、有史以前にもさまざまな種族がいたが、その多くが連鎖を続けていけず滅んでしまったのじゃ」
「……残念だけど、それが自然の摂理なんじゃないのか?」
「ワシら人類はその摂理に抗えるのじゃ」
人類すべての不老不死。
それがスセリの野望だったのか。
スセリが俺の手首をつかむ。
「ゆくのじゃ。共に精霊界へ」
しばらく考える。
その短い時間の後、俺は彼女の手をやさしくほどいた。
「俺は行けない。お前を行かせるわけにもいかない」
俺は首を横に振る。
するとスセリはやさしく微笑む。
こわがる子供を安心させるような、母親の微笑みだ。
「恐れる必要はないのじゃ」
「恐れてなんていない」
「ならば、なにゆえためらうのじゃ」
「スセリがウソをついているからだ」
その言葉はふいうちだったのだろう。
スセリの目が大きく見開かれる。
「お前が他人のためになにかをするなんて考えられない」
「ひどい言い草じゃの」
この少女が革新やら救済やらで人類を不老不死にするつもりではないのはわかりきっている。
「教えてくれ。お前の真の目的を」
「もたもたしておってらロッシュローブ教団に先を越されるのじゃ。おそらくナイトホークも精霊剣承をなす資格の持ち主なのじゃ」
「教えてくれなければ俺は行かない」
「……」
スセリは口をつぐむ。
うつむいて黙りこくる。
しばしの沈黙ののち、彼女はこう言った。
「言えぬのじゃ」
そう言い残してスセリは上昇していく。
「まて! スセリ!」
「さらばじゃ」
天高く飛んでいき、空の裂け目へと消えてしまった。
それから続いて、空の彼方から飛んできた、翼を持った無数の影も空の裂け目へと入っていった。
あれは竜か。
ロッシュローブ教団が乗っていたのかもしれない。
やつらも願いを叶えるために精霊界へと向かったのだ。
空の異変に気付いた人々が家から出てくる。
夜だというのに、裂け目から差す光のせいで外は昼間のように明るい。
「アッシュ!」
「アッシュさま!」
「どうなってるんだ!」
マリアとプリシラとユリエルが駆けつけてきた。
「空のあれはなんなんですの?」
「精霊界の入り口だ」
俺は三人に先ほどの出来事をかいつまんで説明した。
「そんな……。精霊界とこの世界が直接つながってしまったなんて」
「スセリさまのことはひとまず置いておくとして……。ロッシュローブ教団がその精霊剣承とやらをするのはどうしても阻止しなくてはいけませんわね」
「わ、悪者に願いごとを叶えさせてはいけないのですっ」




