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ベオウルフが――女の子!?
聞き間違えたのか……?
「ベオウルフ、女の子なのか……?」
「そうですが」
おそらく俺はとても間抜けな顔をしているだろう。
ベオウルフが女の子だったなんて……。
確かに顔立ちはかわいいが、11歳の子供ならこんなものだろうと思っていた。
自分のことを『ボク』と言っているからなおさら。
そのうえ『ベオウルフ』なんて名前、どう考えても男だろう。
「アッシュお兄さん、ボクを男だと思っていたんですか?」
「す、すまない……」
ベオウルフがジト目で俺を見ている。
プリシラとマリアとスセリも呆れている。
もしかして、俺だけか? 勘違いしていたの。
「そういうわけで、ボクは女です。異性ですのでアッシュお兄さんの恋愛対象です。結婚してください」
「異性だからって結婚するとは言ってないぞ!?」
そもそもどうしていきなり結婚してくれだなんて要求してきたんだ。
「ベオウルフ。どうして俺と結婚したいんだ?」
「アッシュお兄さんがボクを負かしたからです。えっと――」
結婚する相手は自分を倒した相手だと決めていたという。
師匠にもそうすべきだと言われていたらしい。
ベオウルフは今まで敗北したことが一度もなかった。
彼――じゃなかった。彼女を初めて倒したのが俺だったのだ。
「アッシュお兄さんはやさしくて頭もいいですから、ボクは結婚したいです」
「うむ。よいのではないか?」
「よくない」
俺は首を横に振る。
「11歳で結婚だなんて早すぎる。貴族同士の政略結婚ならともかくな。ベオウルフは俺に恋愛感情はないだろ?」
「よくわかりません。恋愛感情ってどんな気持ちになるんですか」
「それがわからないうちは、俺は結婚できない」
「そうですか……」
ベオウルフはがっかりしたようすだった。
彼女には申し訳ないが、そんなかんたんに結婚はできない。
「ベオウルフもいつか恋愛感情を抱く相手が現れる。それが俺だったら考えるよ」
「わかりました」
素直な子でよかった。
もう少し成長すれば彼女にも恋を抱く相手が見つかる。
そしてそれはたぶん、俺ではないだろう。
「うまいこと言って逃げおったのじゃ」
「逃げてない」
「アッシュはわたくしの夫となる人。ベオウルフは三番目の妻にしてさしあげますわ」
「二番目ではないのですか? マリアさん」
「二番目はプリシラですわ」
「!?」
プリシラは驚愕の表情になる。
それから対抗心を燃やしながらこう主張した。
「わ、わたしはアッシュさまの一番の妻になりますっ」
「いーや、一番はワシなのじゃ」
スセリまで乱入してきた。




