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59-2

 プリシラとマリアとスセリの沐浴が終わった後、俺とフーガさんも泉に入った。

 さすがに男二人で裸になる気にはならなかったので、ズボンのすそをまくり上げて裸足で入るだけだったが。

 それでもひんやりと冷たい水は、厳しく降り注ぐ太陽の熱から俺たちを救ってくれた。


「ほれほれ」

「おわっ。だから水をかけるなって」


 スセリがちょっかいをかけてくる。

 フーガさんが上着の端でメガネを拭く。


「しかし、あまり悠長にはしていられませんね。ここは悪魔ベズエルのすみかなのですから」


 彼の言うとおり、悪魔ベズエルがいつ襲ってきてもおかしくない。

 しかし、そこで俺は思い直す。

 この猛烈な暑さの砂漠を歩き回るのより、ここでベズエルがやってくるのを待つほうが得策ではないか――と。

 俺はそれをみんなに提案する。


「妙案なのじゃ」

「賛成ですわ。この砂漠をむやみに歩いていたらすぐに干からびてしまいますもの」

「ベズエルさんも、ここに水浴びに来るかもしれませんからねっ」


 悪魔アズキエルのように、どこかに拘束されているとしたら探索しなくてはならないが。

 皆、この灼熱の世界を歩きたくはないようだったので、その懸念までは口に出せなかった。

 と、そのとき、


「みなさん、あれを見てください!」


 双眼鏡を見ながらフーガさんが遠くを指さした。

 一斉にそちらを向く。

 そこにあるのはかげろうに揺らめく砂漠。

 目を凝らすと、なにか小さな影を確認できた。


 フーガさんから双眼鏡を借りたスセリがそれを見る。


「建造物があるのじゃ」

「あそこにベズエルが封印されているのかもしれません」

「十中八九、そうじゃろう」


 二人のやりとりを聞いていたプリシラとマリアの顔が青ざめた。


「ううう……。この砂漠を歩かなくてはならないのですね……」

「ワシとアッシュなら転移魔法を使えるのじゃ」


 その転移魔法をというのは、物体を一度消去して別座標で再構築するという、いわば一度死んでも生き返らせるというおっかない代物。

 フーガさんが目を見開く。


「いくら『稀代の魔術師』といえど、転移魔法は危険極まりないです」

「安心するのじゃ。何百回と実験してきたが、失敗して見るも無残なありさまになったのは数回だけなのじゃ。ぬいぐるみの裏表がひっくり返ったり、果物の中身だけが転移されたり……。これが人間でなくて本当によかったのじゃ。のじゃじゃじゃっ」


 ぞっとする俺たち。

 やっぱり失敗するのか……。


「ワシは平気なのじゃが、おぬしらはどうする?」


 俺たちはそろって首を横に振った。

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