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一見、なんの変哲もない水晶玉かと思った。
だがしかし、水晶玉には覗き込む俺たちではなく、彫像のように黒い肌の悪魔が映っていた。
黒い悪魔は鋭い牙をむき出しにして怒り狂った形相をしている。
その目に理性は宿っていない。まさしく獣。
「こ、こわいです……」
後ずさるマリアとプリシラ。
それとは対照的にスセリは水晶に映る悪魔を凝視している。
これがオストヴィントの隠していたもの……。
「オストヴィントは魔王ロッシュローブを崇拝していた。そしてヤツの屋敷にはこの水晶玉が隠されていた。アッシュよ。これがなにを意味するかわかるか?」
魔王ロッシュローブ。
悪魔。
この二つから連想されるもの。
それは――四魔。
魔王ロッシュローブの肉体の一部が悪魔と化したもの。
俺たちは以前、ガルディア家の家宝に封じられていた四魔の一体、アズキエルと戦って撃破した。
「こいつも四魔なのか……」
「硬質の黒い悪魔は『ベズエル』と名づけられておる」
ベズエル……。
ベズエルは筋肉質の腕で水晶玉を内側から激しく叩いている。
今にも水晶玉を破壊して飛び出てきそうだ……。
スセリはそんなベズエルに恐れることもなく、水晶玉をひょいと持ち上げた。
そして片目で水晶玉の内側にいるベズエルをためつすがめつ観察しだした。
本当にスセリは恐れを知らない。
「ス、スセリさま。うかつにさわっては危ないですわよ!」
「マリアさまの言うとおりですよっ」
「なに、心配ないのじゃ。まあ、ワシがうっかり水晶玉を落として割ってしまったなら話は別じゃがの」
「落とす『フリ』でもしたら怒りますわよ」
はらはらする俺たちをよそに、スセリは片手で水晶玉を持ちながらのじゃのじゃと笑っていた。
四魔の一体、悪魔ベズエルの封じられたこの水晶玉をどうするか。
俺とプリシラとマリア、スセリの四人で相談し、これを冒険者ギルドに持ち帰ることにした。
持ち帰るのにも危険が伴うが、このままこれを放置して中にいるベズエルが出てきたら大惨事はまぬがれない。
「それでは帰りましょうか」
「あの迷宮をまた歩きますのね……。目印をつけておいたとはいえ、うんざりしますわ」
「いんや、帰りはあっという間なのじゃ」
どういうことだ……?
スセリの言葉に俺たちは首をかしげる。
「窓から飛び降りればいいのじゃ」
簡単に言ってくれたが、ここは屋敷の二階。飛び降りたら大ケガは必至だ。
俺たちは顔を見合わせる。
「着地する寸前に反発の魔法でふわりと浮けば、落下の速度を殺せるのじゃ。なにごとも実践が大事なのじゃ。魔法の訓練と思ってやってみるがよい」




