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57-1

 書物型の魔物は障壁を展開して対応してきた。

 俺とスセリの魔法は障壁によって防がれる。


「メイドの一撃ですーっ!」

「乙女の一撃ですわーっ!」


 だが、プリシラのロッドとマリアの光魔法の剣による攻撃は防ぎきれず、二人の同時攻撃を受け止めた障壁は粉々に砕け散って消滅した。

 続けざまにマリアが光の剣を垂直に振り下ろす。

 魔法の刃は魔物を一刀両断した。

 書物型の魔物は絶命し、跡形もなく消え失せた。


「やりましたね、マリアさま」

「容易いですわ」


 得意げに髪をかき上げるマリア。

 広間に静寂が戻る。


「おぬしの嫁たちは頼りがいがあるのう」


 スセリがからかう。

 俺は無視する。


「スセリさま、なにを笑っていますの?」

「『俺の自慢の嫁だぞ』とアッシュが言っておったのじゃ」

「まあっ」


 ぽっと顔を赤らめるマリア。


「アッシュったら。そういうのはもっとわたくしに聞こえるように言ってくださいまし。『自慢の嫁』だなんてもうっ」


 彼女の機嫌を損なわせても得しないので俺はなにも言わなかった。

 プリシラが俺のそばに寄ってくる。


「アッシュさまっ。このプリシラ、奮闘しましたっ」

「ああ。がんばったな」


 俺が頭をなでるとプリシラは気持ちよさそうに目を細めた。


「わたしは『自慢のメイド』でしょうか……?」

「もちろん。俺の自慢のメイドだ」

「てへへ……」

「アッシュよ。ワシの頭はなでんのか?」

「なでない」

「冷たい奴なのじゃ」

「スセリさま。わたくしのアッシュを横取りしてはいけませんわよ。さあ、アッシュ。先へ進みますわよ」


 立ちはだかる敵を退けた俺たちは先へと進んだ。



 部屋の奥の扉を開け、通路を少し進むと、上の階へ続く階段が現れた。

 階段を上る。

 踊り場までたどり着いて、少し休憩。

 それから再び階段を上る。

 しばらく上ると、また踊り場にたどり着いた。


「やけに長い階段ですわね」

「うむ。妙じゃのう」

「たしかに、こんなに長い階段がお屋敷にあるのでしょうか」


 俺もこの長い階段に違和感をおぼえていた。

 そして嫌な予感もした。

 チョークで足元に線を引く。

 それからまた階段を上りだした。


 三度目の踊り場まで上ってくる。

 その瞬間、俺たちは「あっ」と声を上げた。

 その踊り場の足元にはチョークで線が引いてあったのだ。


「これって」

「まさか」

「同じところをぐるぐる回っておったようじゃの」


 長いと思っていたが実のところ、俺たちは同じ場所を何度も上っていたのだ。

 どうりでいつまでたっても上の階が見えてこないわけだ。

 ためしに回れ右して階段を下りてみると、すぐにもとの階に戻ってこられた。

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