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スセリは多くの石を奪える位置に自分の石を置いていく。
二手、三手先までは考えていない。
俺はそれを知っていたから、あえて石をたくさん取られるように自分の石を置き、スセリを誘導していたのだ――俺の仕組んだ罠へと。
盤面の半分以上に白と黒の石が置かれた。
多数の黒の石の中に、ぽつぽつとある白の石。
形勢はスセリが有利に見える。
しかし、それは見える『だけ』だ。
ここからが反撃の時。
俺が盤面の隅に白の石を置く。
「のじゃっ!?」
すると、対角線上にある白の石で挟まれたスセリの黒の石がまたたく間に白へと変わった。
斜め一直線にあるスセリの石を一気に奪った。
「こ、これくらいくれてやるのじゃ……」
「なら、これもいただくぞ」
「のじゃじゃっ!?」
再び盤面の隅に石を置き、直線状にあるスセリの黒の石をすべて白に染める。
スセリの黒の石は俺よりも多いものの、すべて盤面の中央付近に固まっている。だから盤面の隅に石を置けば、それを丸ごと奪えるのだ。
白の石を置くたびに黒の石が一斉に白へと変わっていく。
スセリもあがいてみせるも、石の配置の関係上、わずかばかりの石しか奪えない。
「のじゃあ……」
敗北を察したのだろう。スセリの顔が青ざめている。
完全に戦意を喪失している。
こうなってはもはやスセリに勝ち筋はなく、結果として俺の圧勝に終わった。
「アッシュさまが勝ちましたっ」
「見事な采配でしてよ!」
プリシラとマリアが歓喜のあまり俺に抱きついてきた。
スセリは床に四つん這いになってうなだれている。
「ううう……。ワシは『稀代の魔術師』なのじゃぞ……」
「俺はその後継者だからな」
プリシラが俺にクッキーを手渡す。
「どうぞ、アッシュさま。召し上がってください」
「勝者には褒賞を――ですわね」
しかし、俺はそのクッキーをスセリに渡した。
プリシラとマリアが「えっ」と驚く。
スセリもいぶかしげに俺を見ている。
「なんのつもりじゃ……」
「食べたいんだろ? 今度からはちゃんとみんなで話し合って決めるんだぞ」
「アッシュ……」
クッキーを見つめるスセリ。
それから彼女はクッキーを四つに割って俺とプリシラとマリアに渡した。
そうだ。こうするのが正しい選択なのだ。
彼女はそれを理解したのだった。
「すみませんでした、アッシュさま」
「どうしてプリシラが謝るんだ?」
「わたしがクッキーを五つではなくて四つだけ持っていれば、そもそもこんな争いは起こらなかったんですから」
「けど、結果的にみんなで分け合えただろ?」
「てへへ。そうですねっ」




