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「いんや。おぬしの年齢は知らんが、ワシのほうが圧倒的に年上なのは間違いないのじゃ」
「スセリって歳はいくつー? 私は15だけどー」
「100から先は数えておらんのじゃ」
フレデリカは「は?」と言いたげな面持ちになった。
「ワシは不老の身での。姿は子供でも実際の年齢は人間の寿命をはるかに超えておるのじゃ」
「……田舎じゃそういうごっこ遊びが流行ってるんですかー? アッシュさーん」
「アッシュ。おぬしからも説明するのじゃ」
俺はどう説明すればいいのかわからず苦笑いを浮かべた。
スセリの言っていることは間違いないけれど、それを説明して納得してもらえるかどうか……。
「まあ、スセリは俺たちより年上だな」
「はぁ、そうなんですかー。でも、私はスセリにタメ口使うんでよろしくー」
「なっ、なんでじゃ!?」
都会の女の子は強い。スセリを負かすとは……。
「ううむ。やはりこの姿は幼すぎたかの。義務や責任とは無縁な子供のほうが楽に生きていけるかと思ったのじゃが……」
スセリはなにやらぶつくさ言っていた。
「そういえばー、アッシュさんとスセリってどういう関係なんですかー? なにげに気になってたんですよねー」
フレデリカにそう問われる。
答えようとしたところで俺は言葉に詰まった。
そういえば、俺とスセリはどういう関係なんだろう。
「家族……っていうのか?」
「兄妹だったんですかー?」
「ワシとアッシュは夫婦の関係なのじゃ」
「はいはい。そういうのいいからー」
スセリの冗談は全く相手にされなかった。
「アッシュさんはマリアさんと婚約してるって知ってるしー」
ちょっと待て!?
まさかマリアが俺のいないところで吹き込んだのか。
「そんでもってー、プリシラとも将来を誓った仲なんですよねー」
待て待て!
「最初は驚きましたけどー、貴族って奥さんが二人も三人もいるのは普通なんですよねー」
「あら、おかえり。フレデリカ」
フレデリカの母親がやってきた。
「ただいまー、ママ」
「学校から帰ってきたなら仕事を手伝いなさい」
「えー」
「ほら、早くなさい」
「はーい」
フレデリカは不満げな顔をしながら俺たちの前から去っていった。
ロビーに残された俺とスセリ。
俺も自分の部屋に戻ろうとしたとき、服の袖を引っぱられた。
「アッシュ。おぬし、ワシを家族だと思ってくれておったのか」
スセリが恥じらいを見せたしおらしい笑みを浮かべていた。
「うれしいことを言ってくれるのう」
俺は内心驚いていた。
まさかスセリがこれくらいのことでうれしがるだなんて。
スセリが俺の腕に自分の腕をまわす。
「家族とは具体的にどういう意味なのじゃ? 姉か? 妹か? それとも妻か?」
「えっと……」
「ワシはどれでもいいのじゃ。家族なら」
そのときだけは彼女が外見相応の少女に見えた。




