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その夜、夢を見た。
「『オーレオール』の継承者よ」
もやが立ち込める、白い世界に俺はいた。
そして俺の前には白い体毛を生やした獣の竜――精霊竜。
そのそばには大剣を手にした、ツノを生やした少女。
これで何度目だったか……。
夢の世界に彼女たちは姿を現した。
「久しぶりですね。アッシュ」
穏やかな口調と目つきの精霊竜。
それに対して、ツノの少女のほうは険しい顔をして俺を敵視している。主従関係にあるらしい精霊竜が俺に対して友好的であるから、手にした大剣で攻撃してはこない……といっても、以前に一度襲われたが……。
「精霊界の結界が強まり、長らくあなたと接触できませんでした。その間に、どうやら魔王ロッシュローブの信奉者たちが魔剣アイオーンを手にしてしまったようですね。これは由々しき事態です」
「アイオーンの封印を解いたばかりか、最悪の相手に渡してしまうとはどういうことだ!」
ツノの少女が激怒して叫ぶ。
「よしなさい。彼に非はありません」
「し、しかし……。はい……」
精霊竜にたしなめられ、不本意そうに怒りを抑える。
キッと無言で俺をにらみつけてくる。
どうして俺はこの子にこんなに嫌われているんだ……。
「アイオーンだけでは精霊剣承はなせませんが、それでも邪悪なる者たちにあの魔剣を使わせるのは極めて危険でしょう。アイオーンそれ自体、強力な魔力を秘めていますから」
魔剣アイオーンの破壊力は二度にわたるナイトホークと戦いで味わわされた。
そして、スセリやこの精霊竜の口ぶりから察するに、アイオーンには隠された秘密があるようだ。
「再び封印を――いえ、『オーレオール』の継承者よ。魔剣アイオーンを邪悪なる者たちの手から取り戻し、破壊するのです」
「破壊できるのか? 俺が?」
「あなたは以前、私の生み出した模造の精霊剣を破壊しました。ならばアイオーンも破壊できるはずです」
「お前が責任をもって破壊するんだ」
「ロッシュローブ教団の者たちはもちろん、あなたのそばにいる『稀代の魔術師』にも渡してはなりません」
スセリか。
スセリも魔剣アイオーンを手に入れることに執着している。
なにか企んでいる。
そしておそらく、よくない企みだ。
「アッシュ。以前にも忠告しましたが、『稀代の魔術師』に心を許してはいけません。あの者は自分以外のあらゆるものを、己の目的を達成するための道具としてしか見ていません」
「……」
俺は返事をしなかった。
スセリはどちらかというと、善よりも悪側の人間。邪悪ではないが、悪だろう。
それでも俺は、スセリは嫌いではない。
精霊竜とツノの少女の輪郭がぼやけだす。
夢が終わりつつある。
「『稀代の魔術師』を信じてはなりません」
その言葉を最後に聞いて、俺は夢から覚めた。




