54-2
プリシラの頭に手をやる。
「プリシラを見捨てるわけないだろ。これからも俺のそばにいてくれ」
「アッシュさまっ」
プリシラは満面の笑みを浮かべた。
……ちょっとだけ自己嫌悪に陥る。
視線を感じて横を見ると、マリアとスセリが「言うと思った」と言いたげな顔をしていた。
食事を終えてその日は解散し、それぞれの部屋に戻った。
就寝の時間だ。
食堂で長いことおしゃべりをしていたから、寝不足になりかねない時刻になってしまった。
ベッドに入り、目を閉じる。
しばらくそのままじっとしていたが、なかなか眠りにつけなかった。
あることがずっと気がかりだったからだ。
俺の思い過ごしだろう。
その心の中で言い聞かせるも、『あること』が気になってしかたがなく、ついにベッドから出てしまった。
「スセリ。起きてるか」
スセリの部屋の前まで行き、扉を軽く叩く。
反応はない。
寝ているのか。
……あるいは。
俺は金属召喚で部屋の合鍵を召喚し、鍵穴に差し込んだ。
ゆっくりと鍵をひねり、扉を開ける。
「……やっぱりか!」
スセリの部屋はもぬけのから。
そして窓の扉が開けっ放しになっていて、レースのカーテンが夜風になびいていた。
窓から下を覗き込むと、ちょうどそこに銀髪の少女の後ろ姿があった。
「スセリ!」
しかし、五階の窓から叫んでも、下にいるスセリには声は届かなかった。
あるいは、聞こえていながら無視しているか。
急いで階段を降り、正面玄関から外に出る。
意外なことに、スセリは玄関の外で俺を待っていた。
「よくワシの気配に気づいたのじゃ。そんなにワシが恋しかったか? プリシラとマリアに恨まれるぞ。のじゃじゃじゃじゃっ」
「……なんとなく、スセリならやりかねないと思っただけだ」
スセリはどうしてこんな夜更けに外にいるのか。
答えは簡単だ。
ロッシュローブ教団の本拠地に乗り込むつもりなのだ。
目的は魔剣アイオーン。
食堂で食事をしていたとき、やけにおとなしかったから、かえって怪しかったのだ。
パチンッ。
スセリが指をならす。
すると、彼女のそばに青白く半透明の馬が出現した。
ぴょんと馬に飛び乗るスセリ。
「魔法で生み出した霊馬なのじゃ。後ろに乗るがよい」
「俺はスセリを止めにきたんだ」
「早く乗らんと置いてくのじゃ」
スセリを力ずくで止めるのは不可能。
俺は促されるまま霊馬にまたがった。
「しっかりつかまるのじゃぞ」
スセリの腰につかまる。
彼女との体格差がだいぶあるため、俺は前かがみの姿勢になった。
スセリが手綱をとると、霊馬は音もなく地面を蹴って駆けだした。




