53-6
懐中時計に目をやる。
まもなく約束の時刻だ。
時計の針が頂点に達したそのとき、小屋の扉がギィと軋みながら開いた。
身構える俺たち四人。
入ってきたのは白いローブをまとった二人の人物。両者ともフードを目深にかぶり、個人の判別をできなくしている。
しかし、ロッシュローブ教団の信者だとは一目でわかった。
「魔書『オーレオール』を渡してもらう」
信者の一人――背の高いほうが低い声でそう言い、手を差し出してきた。
背の低いほうは背後で微動だにせず立っている。
俺はふところから『偽オーレオール』を取り出す。
「これを渡せば、今後一切俺たちに危害を加えないと約束するんだな?」
「約束しよう」
間違いなくウソだ。
わかっていながらも、俺は『偽オーレオール』を信者に手渡した。
偽物だと看破されないだろうか。
若干の不安を残しつつ。
「……」
信者は手にした『偽オーレオール』をためつすがめつ見る。
俺たちはかたずをのんで待つ。
「いいだろう」
信者はそう言い、俺たちに背を向けた。
そして、相方の背の低いほうにこう命じた。
「やれ」
背の低い信者がかざした手が光る。
魔法!
わかっていたが、やはり俺たちを始末する気か!
「ほとばしれ稲妻!」
「阻むのじゃ」
信者とスセリが同時に魔法を唱える。
信者の手から幾重にも折れ曲がる雷撃が生じ、俺たちに向かって走る。
そしてそれをスセリの魔法障壁が防いだ。
背の高いほうの信者が『偽オーレオール』を手にしたまま小屋を出る。
そいつと入れ替わりに、新たに二人の信者が入ってきた。
まずは作戦成功だ――信者が『偽オーレオール』を持ち帰った。
あとはこの三人の敵を倒すのみ。
三人の信者が同時に魔法を唱える。
「効かぬわ」
俺たちめがけて襲いくる魔法の光弾をスセリが魔法障壁で容易く防御した。
「覚悟してくださーいっ!」
プリシラが信者たちの前に躍り出てロッドを振るい、瞬時にして二人を蹴散らす。
残っていた最後の一人が懐から短刀を出し、プリシラの背に突き立てる――寸前に、俺が体当たりをかましてそいつを吹き飛ばした。
壁に激突して倒れた信者を押さえ込む。
「あ、ありがとうございます、アッシュさま」
プリシラが倒した二人の信者は頭部を殴打されて気絶している。
俺が組み伏せた信者は魔法で拘束し、身動きを取れなくした。
なんとかなったか。
「アッシュ・ランフォード。やったか」
小屋の中にキルステンさんと王国騎士団たちが現れた。
「遅いのじゃ。役に立たんのう」
「『偽オーレオール』はちゃーんと信者が持ち帰りましたわよ、ギルド長」
「それでいい。よくやった」




