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53-2

「お前たちには関係ない」


 キルステンさんは冷たくそう返す。

 やっぱり後をつけるのはまずかったな……。


「ルーナ・キルステンとローラ・キルステン……」


 フレデリカが墓に刻まれた名前を口にする。

 没年を見たところ、ルーナ・キルステンは27歳で、ローラ・キルステンは5歳で亡くなっている。


「私の妻子だ。5年前に二人とも死んだ。妻も娘もこの場所が好きだった。だからここに墓を立てた」


 家族でこの森に来て遊んだのだろう。

 湖で小舟を漕いだこともあったのかもしれない。


「やさしいんですね。キルステンさんは」

「終わってしまった後のやさしさなど無意味だ」


 冷たく言い捨てるキルステンさん。


「アッシュ・ランフォード。お前に大切な人はいるか?」


 そう問われ、俺は反射的にプリシラを見た。それが返事の代わりになった。


「ならば、なにがあろうと守り通せ。 終わってしまった後のやさしさなど無意味だからな」


  ――終わってしまった後のやさしさなど無意味。

 キルステンさんは二度もその言葉を口にした。

 おそらく、彼にとっての自戒の言葉なのだろう。


「さらばだ」


 キルステンさんはその場から立ち去った。


「『関係ない』って言ったわりには話してくれましたねー」

「ちょっとは反省しろ。フレデリカ……」

「アッシュさま。フレデリカさま。お花をつんできました」


 プリシラが俺とフレデリカに一輪ずつ花をくれた。

 俺たちはその花をお墓に供え、短い祈りを捧げた。



 王都に戻ってきた俺たちは、宿屋『ブーゲンビリア』にいったん帰って釣り具を片付けてから再び街へくりだし、カフェへ足を運んだ。

 垢抜けた雰囲気のおしゃれなカフェだ。客もたくさんいる。

 店員が注文を聞きに来て、俺たちは三人とも紅茶とケーキを頼んだ。


「プリシラー。プリシラの頼んだチーズケーキ、半分ちょうだいー。私のチョコレートケーキ半分あげるからー」

「はいっ。半分こですねっ」


 注文した紅茶とケーキが運ばれてくると、さっそくプリシラとフレデリカはケーキを半分に切って交換した。

 仲良くなったな。二人とも。

 プリシラに友達が増えてうれしいかぎりだ。


「アッシュさーん。なにニヤニヤしてるんですかー」

「えっ。俺、そんな顔してたか?」

「してましたけどー。あー、もしかしてー」


 フレデリカがふっと笑みを見せる。


「私に恋しちゃいましたー?」

「……それはないから安心してくれ」

「そうですかー。私、学校だとけっこうモテるんですけどー」


 プリシラが「ほっ」と胸をなでおろしていた。

 俺はフレデリカの顔をまじまじと見る。

 マリアと比べればさすがに勝ち目はないが、顔立ちは整っている。それに、ほんのり化粧もしているから、言い寄る異性がいるのはウソではないのだろう。

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