53-1
キルステンさんの姿が見えなくなるまで、俺とプリシラとフレデリカは彼の背中を見送っていた。
彼は分かれ道を曲がり、湖とは反対方向へ行った。
「さーて、追いかけましょうかー」
フレデリカがそう言いだして、俺とプリシラは「えっ!?」と声を出してしまった。
フレデリカはいたずらを思いついた子供のようにニヤリと笑みを浮かべている。
「あの人ー、なにか隠してそうじゃないですかー」
都会っ子は刺激に飢えているのだろうか……。
「フレデリカさま、怒られますよ……」
「怒られたらおとなしく帰ればいいだけだしー。アッシュさんも興味ありますよねー、あの人がなにをしにいったのか」
正直なところ、興味が無いわけではない。
冒険者ギルドという国家規模の組織の最高責任者であるにもかかわらず、キルステンさんは20代の若者にしか見えない。その時点で彼になにか秘密があるのではないかと俺は密かに思っていた。
「沈黙は肯定ととらせてもらいますよー」
フレデリカはもと来た道を引き返し、キルステンさんの後を追いだした。
このまま彼女を放っておくことはできない。
――と、自分に言い聞かせ、俺はプリシラと共にフレデリカについていった。
分かれ道へとさしかかる。
右手は湖への道。
左手はキルステンさんが向かった道。
俺たちは左手へと進む。
「冒険者ギルドの一番えらい人が、こんなところに一人でなんの用事で来たんでしょうねー」
「きっと魔物討伐です」
「そういうのってー、ギルドで雇われている冒険者がするもんじゃないー? まー、私はそのへん詳しくないけれどー」
キルステンさんの後を追うも、彼の背中はまだ見えない。
ただ、ここは一本道だから、いつかは彼に追いつくだろう。
「はううう……。バレたら冒険者の資格をはく奪されたりしないでしょうか……」
「さすがにそこまではされないだろうけど……」
森の小道をついに抜ける。
そして木漏れ日に照らされた、開けた場所へとたどり着いた。
その場所の中心にキルステンさんが背中を向けて立っていた。
彼の前には石板のようなものが二つある。
キルステンさんは二つの石板をじっと見下ろしている。
よく見ると、石板のそばに白い花が添えられている。
それでわかった――その石板がお墓だと。
「私になにか用か」
気配をさとったのだろう。キルステンさんが木の陰に隠れていた俺たちのほうを振り返った。
「すっ、すみませんっ!」
プリシラが慌てて木の陰から出て頭を下げる。
俺とフレデリカもプリシラに続いて「すみません」と謝った。
「人の後をつけるのは感心できんな」
「キルステンさんがなにをしにきたのか気になって……」




