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52-7

 桟橋に小舟を停めた俺たちはさっそく猟師のもとに魚を持っていった。

 俺が抱えて持ってきた大魚を目にした猟師は仰天していた。

 そしておっかなびっくり大魚を受け取り、おこづかいを俺たちにくれた。


 これだけあれば、王都のカフェで紅茶と軽食を楽しめるな。

 プリシラもフレデリカもニコニコだった。


 それにしても本当に大きな魚だ。

 スセリも連れてくればよかった。あいつの持っている古代人の遺物『端末』は、目の前の光景を絵に留めておける『カメラ』という機能があるらしかったから。


「さっそく王都に戻ってお茶にしましょうっ」

「おー」


 俺たちは湖を後にして再び森の中へと入った。

 薄暗い、しめった森の中。

 地面に落ちた葉を踏みしめながら細い道を歩く。

 ときどき鳥が飛び立ち、頭上の枝と葉が音を立てて揺れる。


「釣りって楽しいですね、フレデリカさま」

「釣りを好きになってくれたのはうれしいけどー、あんなおっきな魚を釣れるのは普通ないよー。っていうか、釣れない日のほうが多いしー」

「舟に乗っているだけでもわたしは楽しかったです」

「ふーん。じゃあ、今度また一緒に釣りにいくー?」

「ぜひぜひっ」


 プリシラに友達ができたようでよかった。


「ハッ! 待ってください!」


 プリシラが急に立ち止まる。


「向こうから足音がします」

「魔物か?」

「たぶん、人だと思います」


 警戒する俺とプリシラ。

 フレデリカは「たぶん木こりか猟師ですよー」と気にしていないようす。

 しばらく待っていると、正面に人影が現れた。

 人影がはっきりと見えるくらい近づいてくると、その正体が俺たちの顔見知りだとわかった。


「キルステンさん?」


 刃物のように鋭い目の青年。

 その人は冒険者ギルドの最高責任者、ギルド長のエトガー・キルステンさんだった。

 意外な遭遇だったのはあちらも同じだったようで、キルステンさんは「お前たち……」と眉間にしわを寄せていた。


「どうしてここにいる」


 厳しく問いただす口調。

 フレデリカは首をかしげている。


「プリシラのお知り合いー?」

「えっと、冒険者ギルドで一番偉い人のキルステンさまです」

「お前たち、どうしてこの森にいるんだ」


 再びキルステンさんは尋ねてきた。

 否応にも緊張する鋭い眼光。

 プリシラがあわあわとうろたえる。


「つ、つつつつ釣りをしにきたんですっ」

「釣り……?」

「向こうに湖があるんですーっ!」


 短い沈黙の後、キルステンさんは肩の力を抜いた。


「……そうか」


 口調からも厳しさが抜けた。

 よく見るとキルステンさん、腰に剣を提げている。

 魔物討伐にきたのだろうか。


「迷子にならないよう、気を付けて帰れ」

「あ、あの、キルステンさまはどうしてこの森に?」


 プリシラが質問する。

 釣り――なわけないよな。


「お前たちには関係ない」


 冷たく答えたキルステンさんは俺たちの横を抜けて、森の奥へ行ってしまった。

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