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52-6

「でしたら、いっぱいお魚を釣って、おこづかいをたっぷりもらいましょうっ。ですよねっ、アッシュさまっ」


 プリシラはやる気満々だった。

 少額だろうが、対価がもらえると分かった俺もやる気になってきた。


「おこづかいもらったら、帰りにカフェにでも寄るか」

「釣り竿担いでですかー? アッシュさーん」

「い、一度『ブーゲンビリア』に帰ってからだな……」


 だが、現実はなかなか厳しかった。

 俺たちのやる気にとは裏腹に、いくら待てども釣り竿はぴくりとも動かなかった。

 けっこうな時間、俺たちは船の上でじっと魚を待っている。


「はうう……。なかなか釣れませんね」

「魚もバカじゃないからねー」


 だいたいいつもこうなるのだろう。フレデリカは釣り竿を小舟のへりに固定した状態で放置し、本を読んでいた。

 眠くなってきた俺は、つい大きなあくびをしてしまった。

 プリシラだけは真剣な面持ちで釣り竿を握っている。


「プリシラってー」


 フレデリカが目を本にやったまま言う。


「アッシュさんのこと好きだったりするー?」

「ふえっ!?」


 途端、プリシラの獣耳がぴんと立つ。

 顔面が一瞬にして真っ赤になる。


「い、いえっ! そ、それは――」

「好きなんでしょー?」

「はっ、はい……。あっ、でもそれは、ご主人さまとしてで――」

「へえー」


 ちらりとプリシラに目をやるフレデリカ。

 目をそらしてしまったプリシラ。

 フレデリカはにやにやとしている。


「アッシュさんはどうなんですかー? プリシラのこと好きなんですかー?」


 と、そのときだった――釣り竿の先がぴくりと動いたのは。

 次の瞬間、強い勢いで釣り竿が引っ張られ、俺は前のめりになった。


「アッシュさま!」


 小舟から投げ出されそうになったところを、プリシラが腰に抱きついて支えてくれた。

 魚が釣り針に食いついた!

 しかもこの引っ張る力、相当大きな魚だ。

 釣り竿の先は数学の曲線みたいに大きく曲がっている。


「アッシュさん、落ち着いてくださいー。力に逆らうんじゃなくて、力を受け流すんですー」


 フレデリカが真面目な口調でそう言う。

 彼女の助言に従い、釣り竿を左右に動かしつつ、少しずつ魚を引き寄せていく。

 小舟が激しく揺れ、水面に何重もの波紋が広がる。


「今です、アッシュさん!」


 渾身の力を振り絞り、釣り竿を引っ張り上げた。

 しぶきを上げながら水面から飛び出てくる巨大な魚。

 魚は釣り糸に引っ張られ、小舟の中に落っこちてきた。


「お、おっきいです……」


 小舟の上で激しくのたうつ、巨大な魚。

 俺たち三人は目をまんまるにしていた。


「こんな大きな魚、私初めて見ましたよー……」

「さすがアッシュさまですっ」


 俺たちはさっそくこの魚を猟師に売るため、陸に向けて小舟を動かした。

 暴れていた魚は、今はおとなしく横になっている。

 恨めしげな目で俺を見ている……ような気がする。

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