表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

363/842

52-5

「そろそろ湖が見えてきますよー」


 フレデリカの言うとおり、遠くのほうに小さな光が見えた。

 太陽の光だ。

 歩いて近づくにつれ、その光はだんだんと大きくなり、いよいよ俺たちは光の中に足を踏み入れた。


 森の中にぽっかりとひらいた場所。

 そこに湖が広がっていた。

 船の一隻や二隻は余裕で浮かべられるほど湖は広大。

 対岸がかすんで見える。

 俺もプリシラもぽかんと口を開けて、目の前の雄大な光景に圧倒されていた。


 心まで澄み渡るほどの透明な湖。

 水面が太陽の光を反射させてきらきらと輝いている。

 森の緑と合わさって、とても美しい自然の景色だった。


「大きな湖です……」

「私のお気に入りの場所なんですよねー」


 フレデリカの後に続いて俺たちは湖を外周を歩く。

 そして湖のそばに建っている小屋で、そこに住んでいる猟師から小舟を借りる許可を得た。

 桟橋まで行き、停めてあった古びた小舟に三人で乗る。


「それではアッシュさん、船を漕いでくださいー」


 フレデリカに言われて俺はオールを漕いだ。

 けっこう重いな……。

 力いっぱいオールを漕ぐと、船はゆっくりと桟橋から離れだした。


 湖を泳ぐ小舟。

 穏やかな時間が流れている――だろうが、俺はオールを漕ぐのに結構必死だったりする。

 汗をかいてきた……。


「がんばってください、アッシュさまっ」


 プリシラがハンカチで額の汗を拭いてくれる。

 フレデリカは上機嫌なようすで湖を眺めている。


「ここにいると、王都のやかましさを忘れられていいんですよねー」

「王都は嫌いなのか?」


 てっきりフレデリカは典型的な都会っ子かと思ったが。


「いいえー。王都も好きですよー。おしゃれなアクセサリー屋や雑貨屋を見て回ったり、カフェで紅茶を飲んだりするの好きですしー。でも、だからこそこういう静かな場所も好きになれるんですよー。私が田舎の村に住む猟師の娘なら、この湖に感動したりはしませんでしょうしー」


 なるほど。そのとおりかもな。


「アッシュさまっ、見てください! お魚さんが泳いでますっ」


 プリシラが水面を指さす。

 水面を覗き込むと、彼女の言うとおり、魚が泳いでいた。


「それでは釣りましょうかー」


 フレデリカは慣れた手つきで釣り竿をしならせて振り、エサのついた釣り針を遠くに飛ばした。

 俺とプリシラも彼女を真似て釣り針を飛ばす。


「どきどきしますね、アッシュさま」

「釣れるといいな」

「手ごたえがあったら釣り竿を引いてくださいねー」

「ところで、釣った魚はどうするんだ? 調理して食べるのか?」

「いいえー。私、釣りは好きですけど魚料理は苦手なんでー」


 苦手なのか……。


「釣った魚はさっきの小屋の猟師さんに売るんですー。ちょっとしたおこづかい稼ぎですねー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ