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「そろそろ湖が見えてきますよー」
フレデリカの言うとおり、遠くのほうに小さな光が見えた。
太陽の光だ。
歩いて近づくにつれ、その光はだんだんと大きくなり、いよいよ俺たちは光の中に足を踏み入れた。
森の中にぽっかりとひらいた場所。
そこに湖が広がっていた。
船の一隻や二隻は余裕で浮かべられるほど湖は広大。
対岸がかすんで見える。
俺もプリシラもぽかんと口を開けて、目の前の雄大な光景に圧倒されていた。
心まで澄み渡るほどの透明な湖。
水面が太陽の光を反射させてきらきらと輝いている。
森の緑と合わさって、とても美しい自然の景色だった。
「大きな湖です……」
「私のお気に入りの場所なんですよねー」
フレデリカの後に続いて俺たちは湖を外周を歩く。
そして湖のそばに建っている小屋で、そこに住んでいる猟師から小舟を借りる許可を得た。
桟橋まで行き、停めてあった古びた小舟に三人で乗る。
「それではアッシュさん、船を漕いでくださいー」
フレデリカに言われて俺はオールを漕いだ。
けっこう重いな……。
力いっぱいオールを漕ぐと、船はゆっくりと桟橋から離れだした。
湖を泳ぐ小舟。
穏やかな時間が流れている――だろうが、俺はオールを漕ぐのに結構必死だったりする。
汗をかいてきた……。
「がんばってください、アッシュさまっ」
プリシラがハンカチで額の汗を拭いてくれる。
フレデリカは上機嫌なようすで湖を眺めている。
「ここにいると、王都のやかましさを忘れられていいんですよねー」
「王都は嫌いなのか?」
てっきりフレデリカは典型的な都会っ子かと思ったが。
「いいえー。王都も好きですよー。おしゃれなアクセサリー屋や雑貨屋を見て回ったり、カフェで紅茶を飲んだりするの好きですしー。でも、だからこそこういう静かな場所も好きになれるんですよー。私が田舎の村に住む猟師の娘なら、この湖に感動したりはしませんでしょうしー」
なるほど。そのとおりかもな。
「アッシュさまっ、見てください! お魚さんが泳いでますっ」
プリシラが水面を指さす。
水面を覗き込むと、彼女の言うとおり、魚が泳いでいた。
「それでは釣りましょうかー」
フレデリカは慣れた手つきで釣り竿をしならせて振り、エサのついた釣り針を遠くに飛ばした。
俺とプリシラも彼女を真似て釣り針を飛ばす。
「どきどきしますね、アッシュさま」
「釣れるといいな」
「手ごたえがあったら釣り竿を引いてくださいねー」
「ところで、釣った魚はどうするんだ? 調理して食べるのか?」
「いいえー。私、釣りは好きですけど魚料理は苦手なんでー」
苦手なのか……。
「釣った魚はさっきの小屋の猟師さんに売るんですー。ちょっとしたおこづかい稼ぎですねー」




