51-3
あくる日。
俺は約束どおり、プリシラとデートすることになった。
「てへへ」
彼女は今朝からごきげんだった。
ほほえましい。
隣にいるこっちまで笑みがこぼれてしまう。
「今日だけはアッシュはプリシラに譲りますわ。でも、今日『だけ』ですわよ」
「てへへー。アッシュさまとデートですっ」
「……聞いてますの? 聞いてませんわね……」
マリアの負け惜しみはプリシラの耳には届いていないようすだった。
「どこに行くか決まっておるのか?」
スセリが尋ねる。
「デートですっ」
「あー、これは完全に浮かれきっておるのじゃ」
やれやれとスセリは肩をすくめた。
「二人とも王都は初めてじゃろう? ワシが案内をして――」
「結構ですっ!」
「そ、そうか……」
プリシラがものすごい気迫でスセリをたじろがせた。
スセリをうろたえさせるとは……。
これは誰もじゃまできないな。
スセリとマリアを残し、俺とプリシラはロビーに出る。
「っしゃいませー」
宿屋の娘、フレデリカの極めてやる気のない挨拶を耳にしつつ、俺たちは外へ繰り出した。
「アッシュさまと二度もデートができるなんて、夢のようです」
プリシラと並んで石畳の道を歩く。
手をつないで。
プリシラの手、やわらかくてあったかい。
彼女も俺の手を握っている。
その手のぬくもりが、自分が誰かに慕われているという実感になり、誇らしかった。
「大きな街ですね」
「王都だからな。この国で一番大きいさ」
「ま、迷子にならずに宿に帰れるでしょうか……」
昼間の繁華街は人という人でごった返していた。
行き交う人々。
呑まれそうなほどの喧騒。
その中に俺とプリシラはいる。
「この服、似合ってますでしょうか……?」
おずおずと上目遣いで俺の顔を見てくるプリシラ。
俺は即座にうなずいた。
今日のプリシラはいつだかマリアたちと買ったワンピースを着ていた。
いつものメイド服姿でない彼女はとても新鮮で、魅力的に映っていた。
俺とプリシラは地図を見ながら王都を巡った。
おしゃれなカフェに寄ったり、服屋やアクセサリー屋に入ってみたり、特に決まった目的もないままぶらついた。
そして公園で休憩。
「アッシュさま。よろしければその……。ひざまくらを――」
「ひざまくらをしてほしいのか? いいぞ」
「ぎゃっ、逆ですっ!」
プリシラが自分のひざをぽんぽん叩く。
「よ、よろしければ、わたしのひざを使ってください……」
これは、断ったら逆に彼女に失礼だな。
お言葉に甘えて俺は彼女のひざに頭を乗せて横になった。
「アッシュさま!」
「な、なんだ……?」
真剣な面持ちのプリシラが俺の顔の真上に現れる。
「き、きもちいいでしょうか……?」
「ああ。なんだか眠くなってきた」




