49-7
仰向けにベッドに倒れたスセリは、完全に脱力していた。
俺は床に落ちた謎の長方形の物体を拾う。
その物体の表面にはガラスが張られていて、絵のようなものが映っていた。
「古代人の遺物か?」
「そうじゃ」
スセリによると、『端末』と呼ばれるこの機械は古代人が一人一台所持していたものだという。
端末は端末同士で会話ができ、手紙のように文字でのやり取りも瞬時にできるらしい。また、現在の時刻を正確に教えてくれたり、百科事典のような機能を持っていたり、多種多様なゲームで遊べたりするとのこと。
端末は古代文明の科学技術を凝縮した万能の装置なのであった。
「今度こそ最高得点を出せると思ったのに、おぬしのせいで気が散って失敗してしまったのじゃ」
どうやらスセリは船旅が始まってからの数日、ひたすらゲームに没頭していたようだ。
なるほど。彼女はこうして暇をつぶしていたわけだな。
「スセリが端末で遊んでたそのゲーム、面白いのか?」
「当時はゲームにのめり込んで堕落する人間が続出して、『端末依存症』という、人類の存続を脅かすほどの問題になったらしいのじゃ」
「そんなにか……」
よほど面白いものらしい。
少なくとも、船旅で暇をつぶせるくらいには。
この時代でも酒と賭博に溺れる人間は少なからずいるから、それと似たような快楽を得られるのかもしれない。
「アッシュよ。おぬしもゲームで遊んでみるか?」
「いや、俺はやめておく」
あまりいい印象は抱かなかったから俺は拒否する。
「いいから、そこに座るのじゃっ」
「おっ、おい、スセリ……」
だが、ベッドに無理矢理座らされる。
スセリが俺の背中に抱きついてくる。
肩越しに俺の持つ端末をのぞき込んでくる。
密着状態。
吐息が耳にかかってくすぐったい。
「端末は指で操作するのじゃ」
「ス、スセリ……。ちょっと近すぎないか?」
「いいから、ワシの指示に従うのじゃ」
俺はどぎまぎしながらスセリの指示に従って端末を操作した。
スセリの声が、体温が、密着する身体のやわらかさが、理性を揺さぶる。
色仕掛けしてくるときはなんとも感じないのに、こういう無自覚なときの無防備なふれあいに限ってどきどきしてしまう。
「ゲームがはじまったのじゃ。勇者を操作して魔物を倒すのじゃ」
いろいろスセリに言われて端末を操作していたが、正直なところちっとも身に入らなかった。
端末に映る勇者が魔物に倒される。
そのたびにスセリが「ヘタクソなのじゃ」と笑うのだった。
むじゃきな笑顔だ。
見とれてしまうほどの。
「ほれ、もう一回やり直すのじゃ」
「あ、ああ……。なあ、もうちょっと離れて――」
「来たぞ! 剣を振るのじゃっ」
「なにやってますの……?」
気が付くと、部屋にマリアとプリシラがいた。
ベッドで密着する俺とスセリをジトーっと上から見下ろしている。
「ノックをしても返事がないのに、扉の向こうから声がしましたので勝手に入らせてもらいましたわ」
マリアやプリシラの目に、この光景はどのように映っているのだろう……。
いや、男女がベッドで密着しているとなると、想像できるのはひとつくらいだな……。
いたずらを思いついたのだろう。スセリがニヤリと笑う。
「アッシュとワシは二人で楽しんでおったのじゃ」
マリアとプリシラは目玉がこぼれ落ちるくらい目を見開いた。
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