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48-7

 船内を散歩してみようと思い立ち、自分の部屋を出て隣の客室をノックした。

 トントン。


「スセリ。いるか?」

「寝ておるのじゃ」

「起きてるだろ」


 スセリの部屋に入ると、彼女はベッドに寝転がっていた。


「ふかふかで気持ちいいのじゃ。『夏のクジラ亭』もいい宿だったのじゃが、いかんせんおかみの愛想がよくてもベッドが高級になるわけではないからの」


 ベッドに寝そべりながらスセリが手招きしてくる。


「光栄に思うのじゃ。ワシと同衾(どうきん)するのを許すのじゃ」

「食事の時間になったら起こすからな」


 彼女の冗談を無視して部屋を後にした。


「あっ、アッシュ」

「アッシュさま」


 廊下に出ると、ちょうど目の前にマリアとプリシラがいた。


「船内を散策しませんこと?」

「アッシュさまとスセリさまをお誘いしにきたのですが」

「スセリは寝るってさ」

「まあ、もったいない」


 俺とプリシラとマリアの三人で船を見て回った。

 とはいえ、乗客に開放されている部屋はほとんどなく、入ることができたのは食堂と遊戯室くらいだった。

 食堂はまだ準備中で、だたっぴろい空間のそこかしこに丸いテーブルがあるだけだった。

 遊戯室には大勢の乗客が集まっていて、ボール打ちやダーツ、カードゲームに興じており、賑わっていた。

 酒とタバコの匂いが充満している。

 ここは大人たちの場所だな。

 俺たちは遊戯室を早々に後にして甲板に出た。


 からっとした青空。

 潮のにおいをはらんだ風。

 気持ちがいい。


 甲板にも乗客が大勢いて、海を眺めていた。

 雑談するご婦人がた。

 追いかけっこをしている小さな子供たち。

 のんびりとした時間が流れている。


「アッシュ、プリシラ。あのマストまで競走ですわよ」


 マリアが甲板に刺さった太い柱――船のマストを指さす。

 マストの帆は風を受けてぴんと胸を張っている。


「競走なんて、子供じゃあるまいし……」

「王都でアッシュとデートする権利をかけて勝負ですわよ、プリシラ」

「アッシュさまと王都でデート!?」

「よーい、どんっ」


 走りだすマリアとプリシラ。

 二人とも真剣な顔だ。

 俺はその場に立ち止まっていた。

 勝ったところで俺にはなんの利もないからな……。

 っていうか、勝手に俺とのデートの権利を賭けられてしまった……。


「やりましたっ」


 最初にマストに手をついたのはプリシラだった。

 さすが身体能力に秀でた半獣。

 マリアはぜえぜえ肩で息をしている。


「今回は負けを認めますわ……」

「アッシュさまのためならわたし、負けませんっ」


 俺のところに小走りで駆け寄ってくるプリシラ。


「アッシュさま。それで、その……」


 恥ずかしげに手を股のあたりでもじもじこすり合わせている。

 視線は足元。

 俺の言葉を待っている。

 ここは彼女の期待に応えてあげないとな。


「ああ、王都についたらデートしよう」


 プリシラの目が大きく見開かれ、頬が赤く染まる。

 そして満面の笑みになった。

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