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48-6

「ところでスセリ」

「なんじゃ? アッシュよ」

「セヴリーヌが見送りにこなくて残念だったな」

「いんや」


 仲良しとは言い難いとはいえ、不老になる前からの知り合いだというのに、スセリは薄情なほどそっけない返事をした。


「セヴリーヌさま、一人で暮らしていけるでしょうか……」

「少々気がかりですわね」


 心配がるプリシラとマリア。

 一応、港に行く前、皆でセヴリーヌの家を訪ねたことは訪ねた。

 しかし、旅立ちを告げても彼女は「ふーん、そうか」と心底どうでもよさそうで、薬の入った瓶を振って魔法実験に没頭していた。


 彼女の反応に俺は少しがっかりした。

 セヴリーヌにとってしょせん俺も、幾星霜と生きていくうちに出会う人間の一人でしかないのか――と。

 うぬぼれているわけではないが、俺は彼女のお気に入りだと思っていた。

 実のところそうでもなかったようだ。


「もしやアッシュ。あやつに泣きつかれるのを期待しておったのか?」


 スセリがにやにやしながら俺の胸をつついてからかってくる。


「ちょっとだけな」

「ほう」

「婚約者の前でそんなこと言うだなんて、いい度胸ですわね」


 マリアがぷんすか腹を立てた。

 それにしても、やはりセヴリーヌを一人残すのは心配だ。

 クラリッサさんに「あの子をよろしく頼みます」とお願いはしたものの……。


「身の回りの世話はウルカロスとかいうゴーレムがしてくれるのじゃ」

「あんなおっきな身体じゃおうちに入れませんよー」


 スセリはさみしくないのだろうか。


「おー。気持ちのいい風なのじゃ」


 彼女は船旅を楽しんでいる。

 銀色の長い髪が風に流れてはためている。

 まぶしい日差しを跳ね返し、きらきらと美しく輝いている。


「王都に着いたら手紙、書いてやれよ」

「おぬしが書けばよいのじゃ。そのほうがセヴリーヌもよろこぶのじゃ」


 しかたない。俺が手紙を書こう……。


「ケルタスがあんなちっちゃくなっちゃいました」


 船尾の先に移る大都市は、今やかすんだ姿。

 水平線の彼方に消えゆく寸前。

 ケルタスでは多くの出会いと出来事があった。


 さみしさを感じずにはいられない。

 プリシラもマリアも、遠い彼方のケルタスをじっと見つめていた。

 スセリだけが青い青い大海原の眺めを楽しんでいた。


 その後、俺たちは各々あてがわれた客室に入った。

 最初、俺たちは自分たちで乗船券を購入したが、後になって冒険者ギルドが新たに乗船券を用意してくれたのだった。

 しかも、一等客室。

 それはギルド職員オーギュストさんからのせんべつだった。

 彼のおかげで俺たちは快適な船旅ができるにようになったのであった。


 荷物を部屋の隅に置き、ベッドに腰掛ける。

 ふかふわかの上等なベッドだ。

 さぞかし寝心地が良いのだろう。

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