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48-5

「クラリッサもプリシラもなさけないのう。これっきりの別れではないのじゃぞ」

「ですけどー」

「しばしの別れなのじゃ。涙はいらん」

「そうね。笑顔でお別れしましょう!」


 涙をぬぐったクラリッサさんはいつもの快活な笑顔を取り戻した。


「そろそろ船に乗らなくてはいけませんわ」


 懐中時計を手にしたマリアが言う。

 とうとうケルタスを発つときがきた。


 スセリの言うとおり、これっきりの別れではない。

 しかし、長い別れにはなるだろう。

 決して短くない日々を過ごしたことで、ケルタスとその人々に自然と愛着がわいていた。

 名残惜しい。

 土壇場になって、どうしようもなく別れがたい気持ちになった。


 周囲の人々が次々と船に乗り込んでいく。

 俺たちも船に乗らないと。


「いってらっしゃいなっ」


 クラリッサさんに両肩をつかまれ、身体をくるりと反転させられる。

 そして力強く背中を押された。

 俺は一歩、前に進む。


「いってきます」


 振り返り、そうあいさつする。


「いってらっしゃい」

「いってらっしゃい」

「いってこい」

「いってらっしゃーい」


 皆に見送られ、俺たちは船に乗り込んだのだった。



 甲板から港を見下ろして手を振る。

 港にいるディア、クラリッサさん、ヴィットリオさん、ミューも手を振っている。


「いってまいりまーすっ」


 プリシラが手を振りながら声を張り上げる。

 港の皆もなにか言っているが、声はここまで届いていない。

 もう、俺たちの言葉は届くことはない。

 それでも俺たちはせいいっぱい手を振りつづけていた。


 重い汽笛が鳴り響く。

 イカリの上がった船はゆっくりと船首を海原へと向け、進みだした。


「……見えなくなりましたわね」

「なのじゃ」

「急にさみしくなりました……」


 俺たちはしんみりとした気持ちになっていた。

 俺とプリシラとマリア、スセリの四人は甲板の手すりの前に立ち、果てしなく広がる海を眺めていた。

 海はただひたすら青い。


「わたくし、実は船に乗るの初めてですの」


 マリアが少し興奮した口調でそう言った。


「こんな大きな船が海の上に浮いているだなんて、どういう仕組みなのかしら。ねえ、プリシラ」

「……えっ? あ、はい……」


 作り笑いをするプリシラ。

 その苦しさを押し隠した笑みを見て、俺は気づいた。

 彼女は昔、奴隷だった。

 奴隷は他の大陸から船で『荷物』として運ばれ、港で売られる。

 彼女にとって船は、昔のつらい記憶を呼び覚ますものなのだ。


「プリシラ」

「ひゃっ」


 彼女のつらい気持ちを消そうと、手を握った。

 驚くプリシラ。

 目をしばたたかせる彼女に笑いかける。


「俺たちの船旅、いっぱい楽しもうな」

「……はいっ」


 彼女が手を握り返してくれた。

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