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48-1

「そうだ。ネネに一つ、頼みがあるんだ」

「アタシに? いいぞ」


 ノノさんに聞かれないよう、ネネに耳打ちする。


「ノノさんの家、すさまじく散らかってるから、家に着いたらまず真っ先に掃除をしてくれ」

「そんなに散らかってるのか」

「それはもう、爆発が起きたみたいにめちゃくちゃだ」


 ネネはごくりとつばをのんだ。


「まあ、いいや。アタシ、掃除は嫌いじゃないからな」


 その言葉が真実なのはネネの家が証明していた。

 彼女の住んでいた家は貧相であっても、汚くはなかった。日々、掃除を欠かしていないのだろう。妹二人が着ている服も、つぎはぎだらけだったがしっかり洗濯されていてきれいだった。


「じゃあねー、アッシュくーん」


 ノノさんが手を振りながら馬車に乗る。

 それに続いてネネの妹たちも乗る。

 最後に残ったのはネネ。


「じゃあ、またな。アッシュ」

「ああ。またな」


 俺たちはあえて「また」を強調してあいさつを交わした。


「オーギュストさんも、いろいろと世話を焼いてくれて感謝してる」

「新しい暮らしがキミにとって幸福であるのを祈っているよ」


 冒険者ギルドの職員のオーギュストさんは、そうやさしく言った。

 そしてネネも馬車に乗る。

 御者が手綱をとって馬を走らせる。

 馬車はケルタスの門をくぐり、乾いた大地へと去っていった。


「ありがとう、アッシュくん」


 オーギュストさんがなぜか俺にお礼を述べた。


「ネネくんのことはずっと気にかけていたんだ。冒険者になった子供がしあわせな暮らしを送れているのを、僕はあまり見ていないから」


 やはり、孤児が冒険者をするのは危険が伴うのだ。


「事情はどうあれ、僕たちギルドはああいう子供たちを使っている立場だ」


 だから、罪悪感があったのだ。


「ネネくん、幸せになれるといいね」

「そうですね」

「アッシュくん。キミだってそうだよ」

「えっ? 俺ですか?」


 俺は自分を指さす。


「キミは冒険者として一生暮らしていくつもりなのかい?」


 その問いは反語だった。


「キミはまだ、辿り着くべき場所に辿り着いていない」


 俺はこれからどこへゆくのだろう。

 旅路の終着点は……。


 ――アッシュさまっ。


 プリシラの笑顔が頭によぎる。


 ――アッシュよ。我が野望を共に果たそうぞ。


 なにかを企むスセリの顔も。


 ――アッシュはわたくしと結婚する運命ですのよ。


 そしてマリア。


「キミに必要なものが王都で手に入るといいね」

「戦いは避けられないかもしれません」

「……そうかい」


 オーギュストさんは残念そうな顔をしていた。

 意識していなかったが、オーギュストさんにとっては俺も『子供』で、幸せになるべき者のうちの一人だと気づいた。

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