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入り口のドアをノックする。
しばらく間をおいた後、ギィと軋みながらわずかにドアが開かれる。
その隙間から幼い女の子の頭がおそるおそるといったようすで現れる。
「アッシュおにいちゃん!」
来訪者が俺だとわかると、女の子はドアを思い切り開いた。
そして飛び出てくる二人の女の子。
二人とも、ひとケタの年齢のあどけない少女だ。
「アッシュおにいちゃんっ」
「こんにちはーっ。わーいっ」
二人の女の子が子犬みたいにじゃれついてくる。
俺は苦笑しながら二人の頭をなでた。
「どっちがネネちゃん?」
「どっちも違いますよ。この子たちはネネの妹です」
ネネの妹二人がノノさんの存在に気づく。
「おねえちゃん、だーれ?」
「お姉ちゃんはノノっていうの。はい、お近づきのしるし」
ノノさんはネネの妹たちにキャンディをあげた。
妹二人は警戒を解き、満面の笑みになる。
「ありがとーっ」
「ノノおねえちゃんやさしいっ」
と、そのときだった。
背後に人の気配を感じたのは。
「ん? アッシュ、来てたのか。そっちの人は誰だ?」
赤い髪の勝気な冒険者の少女。
ネネだった。
「ネネ、紹介する。以前話した錬金術師のノノさんだ」
「ノノでーす。よろしくね、ネネちゃん」
にっこり笑顔のノノさん。
ネネのほうは頭のてっぺんからつま先まで、じっくりとノノさんを観察している。
「アタシはネネだ。なんだ、ぜんぜんアタシと似てないじゃないか」
「そうかしら。私はネネちゃんに親近感がわいちゃったわ。えいっ」
「うわっ」
親愛のあかしのつもりなのだろうか。ノノさんはネネにいきなり抱き着いた。
「ちょっ、いきなりなにするんだ!」
「ふふっ。かわいい」
抱きしめるノノさん。
困惑しながら抵抗するネネ。
「おい、アッシュ! この人どうにかしろっ」
「こういう人なんだよ」
それから俺とノノさんはネネの家に招かれた。
ネネが妹二人をにらみつける。
すくみ上がる妹たち。
「二人とも、なに食べてるんだ?」
「え、えっと……」
「ノノおねえちゃんにキャンディもらったの……」
ネネの鋭い視線がノノさんのほうに向けられる。
「施しのつもりか」
「えっ? どういう意味?」
「……なんでもない」
ネネは貧困層であるのを気遣われるのを嫌っている。
とりわけ、他者からの哀れみに対して敏感で、俺が少しでもそういう気持ちになるとすぐに察して機嫌を悪くするのだ。
ノノさんはきょとんと首をかしげている。
彼女にそういう感情がないのがわかると、ネネの面持ちは穏やかになった。
「ありがとう。キャンディくれて」
「ネネちゃんも食べる?」
「いや、いい」




