46-7
蜜を吸う蝶々。
花粉を運ぶミツバチ。
草花だけではなく、天上の花畑には昆虫までも住んでいた。
「どうじゃ。登ってきたかいがあったろう?」
「きれいですわっ」
自慢げなスセリ。
俺もプリシラもマリアも、目の前の色鮮やかな光景にすっかり見とれてしまっていた。
「『それ』がここをこんなふうにしているのか? スセリ」
「いかにも、なのじゃ」
スセリの背後には六角形の水晶がゆっくりと回転しつつ浮遊していた。
別の遺跡でも見たことがある。
膨大な魔力を秘めた水晶だ。
スセリによると、この水晶から流れ出る魔力が、床一面に敷かれた土に活力を与え、草花を育てているのだという。
旧人類が滅亡した後もこの花畑は残り続け、何百もの世代交代を繰り返し、途方もない月日を穏やかに過ごしてきた。
遺跡の頂上という隔絶された世界は、外敵の及ばぬ自然の楽園となっていたのだ。
空間の温度もほどよく暖かく保たれている。これも水晶の力だろう。
「ステキなお花畑ですね」
プリシラがしゃがみ込み、心地よさそうに花のにおいをかぐ。
ひらひらと舞っていた蝶々が彼女の頭にとまった。
「スセリはこの水晶の魔力を感じ取って塔に登ったんだな」
「うむ」
「なあ、この水晶も――」
言いよどむ。
プリシラは楽しげだが、俺はそうではなかった。
以前、同じような水晶を別の遺跡で見つけた。
スセリはそれを破壊した。
今の人類には過ぎた代物だと言って。
「この水晶を破壊したら、花畑は……」
「徐々に枯れていくじゃろう」
「えっ!?」
プリシラとマリアが驚く。
「スセリさま、この水晶を壊すおつもりですか!?」
「前にも言ったじゃろう。今の人類にとって、この水晶は破滅をもたらすものなのじゃ」
「で、ですが……」
「どうにかなりませんの? スセリさま」
悲しそうな顔をするプリシラとマリア。
スセリもいつものふざけたような表情を隠し、真剣な面持ちになっていた。
「プリシラよ。本来ならこの庭園も旧人類の滅亡に伴って枯れる運命だったのじゃ」
「ですが、かわいそうです……」
「気持ちはわからんでもない。ワシだってこの美しい光景を台無しにするのはしのびない」
「アッシュさま……」
プリシラが助けを求めてくる。
スセリも俺を見つめている。俺がどんな言動をとるのか見定めるかのような目で。
「スセリ。本当にこの水晶は危険なんだな?」
「現代の魔術師が力を得ようと干渉すれば、暴走して辺り一帯を破壊しつくすじゃろう」
「そうか……」
「アッシュさまっ」
すがりついてくるプリシラ。
「プリシラ」
俺は微笑みながら彼女の頭をなでた。
「この花畑に咲く花を持ち帰るっていうのはどうだ?」
「持ち帰る?」
「このまま花畑を枯らしてしまうのはあまりに残酷だ。だからケルタスに花を持ち帰って、別の場所に植えなおすんだ。さすがに花畑の花全部は無理だがな」
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