45-7
「プリシラ、動くなよ」
「は、はい……」
治癒の魔法を唱える。
淡い光がプリシラを包み込むと、彼女の頬に引かれていた傷が瞬く間に消えた。
「ありがとうございます。アッシュさま」
「俺のほうこそありがとう、プリシラ。一人でワーウルフを足止めしてくれて」
さすが身体能力の高い獣人なだけはある。
魔法が使えないにもかかわらず、魔物と互角に渡り合えるなんて。
「優秀ですわね、プリシラは」
「てへへ」
「わたくしとアッシュが結婚したあかつきには、プリシラを側近にしてあげますわ」
「ふえっ!?」
「おーっほっほっほっ」
あわあわとうろたえだすプリシラ。
マリアは高笑いを上げていた。
魔物を退け、再び塔を登る。
かなり高いところまで登ってきた。
窓からはアークトゥルスの乾いた大地が見下ろせた。
ケルタスの街も小さく見える。
「少し休憩しませんこと?」
マリアが提案してくる。
彼女はだいぶ呼吸が荒くなっていた。
「わたしも疲れちゃいました」
そうプリシラも言うが、彼女は汗一つかいていない。
マリアに気をつかってそう言ったのだろう。
俺たち三人は安全そうな部屋に入り、休憩することにした。
マリアが水筒の水をコップに注ぎ、優雅に口に含む。少し顔色がよくなった気がした。
プリシラはビスケットをかじっている。
冒険者ギルドから支給される、味のしない携帯食料だが、クラリッサさんのイチゴジャムをつければおいしいおやつに早変わり。プリシラはしあわせそうな笑みを浮かべながら、ジャムにつけたビスケットを食べていた。
「それにしても、プリシラとスセリさまはこんな高いところまで登ったのですわね」
「調査する階はとっくに過ぎたんですが、スセリさまがどんどん先に進んじゃって……」
苦笑いするプリシラ。
まったくあいつ、プリシラに迷惑をかけて……。
「相変わらずスセリさまは突拍子もないお人ですわね」
不老の身となった『稀代の魔術師』だ。普通の人間とは根本的に価値観や感性が違うのだろう。
「……それにしても」
「な、なんだ……?」
マリアが俺をじろじろ見ている。
「スセリさまとアッシュ、似てませんわねぇ」
「そういえばそうですね。スセリさまはアッシュさまのご先祖さまですのに」
言われてみればそうだ。
俺とスセリは血のつながりがあるはずだが、顔はこれっぽっちも似ていない。
髪も彼女のような美しい銀髪ではない。
「たぶん、あいつの旦那さんの血を濃く受け継いでいるのかもな」
「リオンさま、でしたっけ」
スセリとセヴリーヌに言われたことがあったのを思い出した。
俺とリオンさんは似ていると。
「アッシュさまのもう一人のご先祖さま……。リオンさまはどんなお方だったのでしょうね。『あの』スセリさまと結婚するなんて――はっ! い、今のはスセリさまに言わないでくださいっ」
「まあ、黙っていればスセリも美人だから、惚れるのも不思議じゃないと思うぞ」
恋愛感情を抱くには少々幼い姿だが、美しい銀色の髪と整った顔立ちは、彼女の本性を知っている俺ですら息をのむことがある。
「アッシュは聞いたことありませんの? リオンさまのこと」
「ないな……」
大して興味はなかったが、リオンさんについて知りたくなってきた。
今度、スセリに尋ねてみよう。
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