45-1
ジャイアントラビットを追いかけるノノさんを追いかける俺とマリア。
「きゃっ」
「っと」
泥でぬかるむ地面に足をとられて転びかけたマリアを抱きとめる。
頬を染めるマリア。
「あ、ありがとう、アッシュ」
「走るのはやめておいたほうがよさそうだな」
「そうですわね。もう見失ってしまいましたし」
ノノさんの姿は白い霧の中に消えてしまい、完全に見失っていた。
「ノノさーん!」
「ノノさーん! どこにいますのー!」
俺とマリアは大声でノノさんを呼んだ。
……返事は帰ってこない。
「まったく、困った人ですわね」
マリアはぷんすか怒っていた。
ノノさんには振り回されてばかりだな。
本人に悪気は無いのだが……。
いや、だから余計にタチが悪いのか?
「もう一度大声で呼んでみます? アッシュ」
「いや、魔物を呼び寄せる危険があるからやめておこう」
ノノさんはもう、とっくに俺たちの声の届かないところまで行ってしまったのだろう。
さて、これからどうするべきか。
霧に包まれたこの森をやみくもに歩くのは危険だ。オーギュストさんのくれた情報では、底なし沼もあるらしい。そんなところにうっかりはまってしまっては命が危うい。
とはいえ、ノノさんをほったらかしにして帰るわけにもいかない。
「アッシュ! これですわっ」
マリアが地面を指さした。
そこにあったのは動物の足跡だった。
「この足跡、さっきのジャイアントラビットのものではなくて?」
「どうだろう……」
森には他にも魔物や動物がいるだろうから、さっきのジャイアントラビットのかどうかはわからない。
「この足跡をたどってみませんこと?」
「わかった。そうしよう」
俺とマリアは足跡をたどっていくことにした。
定期的に木の枝に目印になるリボンを結びながら、慎重に進んでいく。
だんだんと霧が濃くなっていく。
「こ、これ以上は危険ではなくて?」
マリアが不安げに俺の肩に手を置いた。
霧は視界を真っ白に染め上げ、もはやどこを歩いているのか判別するのすら難しくなっていた。
さすがにノノさんもこんなところまでは来ないだろう……たぶん。
「きゃあああーっ!」
そのときだった――霧の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきたのは。
「ノノさんですわ!」
魔物に襲われたのか!?
俺たちは霧をかき分けて、声のするほうへ駆けつけた。
「助けてー!」
深い霧を分け入った先にノノさんはいた。
ノノさんは灰色の沼に腰まで浸かっていた。
これが底なし沼!
「アッシュくん! マリアちゃん! よかったわー」
「ノノさん! 俺の手につかまって!」
ノノさんの手をつかみ、彼女を底なし沼から引き上げる。




