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44-1

「スセリ。『ゴスペル』はどれほどの力を持った魔書なんだ?」

「……うむ」


 魔書『ゴスペル』を閉じたスセリが言う。


「この魔書には、現代では禁呪扱いされている魔法や、発動方法が不明となった魔法が記されておる。たとえば、天空より星を落とす魔法――」

「そ、空から星を落っことしちゃうのですか!?」


 プリシラが目をまんまるにして驚く。

 俺もマリアも同様に驚いていた。


「治癒魔法はもちろん、老化を抑制する魔法についても記されておる。まあ、ワシの『オーレオール』に書かれている魔法に比べれば数段劣るがの。ふむ、こやつも不老の魔法を研究しておったようじゃの。その半ばで寿命で果てたようじゃが」


 ミューのご先祖さまがそんな魔法を操れる魔術師だったなんて。

 しかし、だとしたら、スセリが興したランフォード家のように、エルリオーネ家も上流の貴族になっていてもおかしくないはず。今のエルリオーネ家はアークトゥルスに無数にある下流貴族の一つでしかない。

 その疑問にスセリはこう答えた。


「エルリオーネ家の始祖、エル・エルリオーネは自らの生み出した魔法が世界の破滅と混沌をもたらすものとして封印したようじゃの。実際『ゴスペル』は高位の魔術師でないと解読できないような暗号魔法が施されておったのじゃ」


 代々召喚術師を輩出することで名を広めていったランフォード家とは異なり、エルリオーネ家の始祖、エル・エルリオーネは一代限りでその魔法を封印したのであった。だからギザ卿もミューも魔法が使えなかったのだ。


 エル・エルリオーネには野心がなかった。

 小さな貴族の一つで彼女は満足したのだ。


「エルとやらはつまらん人間だったようじゃのう。『ゴスペル』に記した魔法を代々伝承して魔術師を国に輩出していけば、ランフォード家に並ぶ貴族になれたろうに」

「誰もかれもがスセリのような人間じゃないんだよ」

「なにを言っておる。ワシこそが魔術師としてあるべき姿なのじゃぞ。のじゃじゃじゃじゃっ」


 スセリがいつもの変な高笑いを上げた。


「しかし、スセリさま。そんなすごい魔法が書かれた魔書をアッシュがいただいてよかったのでしょうか」

「あやつらが持っておっても宝の持ち腐れじゃろう」

「なら、スセリが使うのか?」


 俺は『ゴスペル』を解読できないから使いようがない。

 マリアも同様だ。


「『ゴスペル』はワシが預かっておくのじゃ。暗号化されているとはいえ、他人の手に渡っては危険な代物なのじゃ。よいな?」

「スセリの手に渡っても危険な気がする」

「のじゃ!?」


 俺に言われてすっとんきょうな声を上げるスセリ。

 プリシラもマリアもジト目で彼女を見ている。


「スセリさま。くれぐれも悪用はしないでくださいね」

「悪だくみしてはいけませんわよ」

「少しは信用するのじゃっ!」


 散々な言い草にスセリは憤慨していた。

 日頃の言動のせいだな……。


 そういうわけで、魔書『ゴスペル』はスセリが持つこととなった。

 少々心配だが……。

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