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「プリシラこそ、なにか身体に変な感じとかなかったか?」
「えっ? わたしですか?」
どうして自分の身を案じられたのかわからないプリシラは、きょとんとしている。
「え、えーっと……。あえて言いますと、アッシュさまとミューさまが心配で胸の鼓動が早まっていました。それくらいですが……」
「ならいいんだ」
エル・エルリオーネが俺たちに見せた偽プリシラは、まぎれもなく幻影だったようだ。
わかってはいたが、本人の無事を自分の目で確かめられて安心した。
それから俺たちはエルリオーネ家の屋敷に帰り、今回の冒険をギザ卿とプリシラに聞かせた。
ミューは二人に冒険を語ったものの「機械がー、どーんってなってー」「高いところをぴょーんとしてー」「ご先祖さまがー、出てきてー」といった感じで二人を苦笑いさせていたため、そのたびに俺が補足したのであった。
「大冒険だったんですねっ」
「またいこーね? アッシュ」
「はは……。俺はこれっきりでいいかな」
のんびりぽわんとした感じのミューは、子供相応に好奇心旺盛だった。
「克己の試練をミューが乗り越えられたのはアッシュさまのおかげです。約束のものをお渡しいたします」
俺は執事から古びた書物、魔書『ゴスペル』を受け取った。
この魔書にどれほどの力が秘められているのだろう。
遺跡で出会ったエルリオーネ家の始祖、エル・エルリオーネはスセリに匹敵する魔術師のようであった。だとすると『ゴスペル』も『オーレオール』に劣らぬ魔書なのかもしれない。
「申し訳ありません。この書物の内容は私にも解読できなくて……。どのような魔法が記されているかわからないのです」
ギザ卿に尋ねてみたら、そのような返事をされた。
「ただ、エルリオーネ家の始祖、エル・エルリオーネが書いた魔書だという言い伝えは残っていますから、価値のある書物なのは間違いないかと」
ケルタスに帰ったらスセリに見せてみよう。
「ところでアッシュさま。くどいようですが、我が娘、ミューと結婚するおつもりはありませんか?」
ギザ卿がまたそんなことを言ってきた。
「克己の試練を通じて、二人の絆が深まったかと思いますが」
「ふかまったー」
「おお! やはりそうであったか!」
「アッシュと結婚するー」
絆が深まったのは確かだが、結婚するつもりは全くない。
今度こそ、自分の意思をはっきり伝えないと。
「ギザ卿。俺はミューとは結婚しません」
「ミューのどこが気に入らなかったのです?」
「今は誰とも結婚するつもりはないのです」
家を出て冒険者をしていても、俺も貴族の子。いつかは結婚しなくてはならない。
だが、それは今ではないし、この子が相手でもない。




