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43-6

「プリシラこそ、なにか身体に変な感じとかなかったか?」

「えっ? わたしですか?」


 どうして自分の身を案じられたのかわからないプリシラは、きょとんとしている。


「え、えーっと……。あえて言いますと、アッシュさまとミューさまが心配で胸の鼓動が早まっていました。それくらいですが……」

「ならいいんだ」


 エル・エルリオーネが俺たちに見せた偽プリシラは、まぎれもなく幻影だったようだ。

 わかってはいたが、本人の無事を自分の目で確かめられて安心した。



 それから俺たちはエルリオーネ家の屋敷に帰り、今回の冒険をギザ卿とプリシラに聞かせた。

 ミューは二人に冒険を語ったものの「機械がー、どーんってなってー」「高いところをぴょーんとしてー」「ご先祖さまがー、出てきてー」といった感じで二人を苦笑いさせていたため、そのたびに俺が補足したのであった。


「大冒険だったんですねっ」

「またいこーね? アッシュ」

「はは……。俺はこれっきりでいいかな」


 のんびりぽわんとした感じのミューは、子供相応に好奇心旺盛だった。


「克己の試練をミューが乗り越えられたのはアッシュさまのおかげです。約束のものをお渡しいたします」


 俺は執事から古びた書物、魔書『ゴスペル』を受け取った。

 この魔書にどれほどの力が秘められているのだろう。

 遺跡で出会ったエルリオーネ家の始祖、エル・エルリオーネはスセリに匹敵する魔術師のようであった。だとすると『ゴスペル』も『オーレオール』に劣らぬ魔書なのかもしれない。


「申し訳ありません。この書物の内容は私にも解読できなくて……。どのような魔法が記されているかわからないのです」


 ギザ卿に尋ねてみたら、そのような返事をされた。


「ただ、エルリオーネ家の始祖、エル・エルリオーネが書いた魔書だという言い伝えは残っていますから、価値のある書物なのは間違いないかと」


 ケルタスに帰ったらスセリに見せてみよう。


「ところでアッシュさま。くどいようですが、我が娘、ミューと結婚するおつもりはありませんか?」


 ギザ卿がまたそんなことを言ってきた。


「克己の試練を通じて、二人の絆が深まったかと思いますが」

「ふかまったー」

「おお! やはりそうであったか!」

「アッシュと結婚するー」


 絆が深まったのは確かだが、結婚するつもりは全くない。

 今度こそ、自分の意思をはっきり伝えないと。


「ギザ卿。俺はミューとは結婚しません」

「ミューのどこが気に入らなかったのです?」

「今は誰とも結婚するつもりはないのです」


 家を出て冒険者をしていても、俺も貴族の子。いつかは結婚しなくてはならない。

 だが、それは今ではないし、この子が相手でもない。

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