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43-5

「ミュー、おうちから出てくねー」

「いえ、その必要はありません」


 なぜだ……?

 ミューは最後の試練を放棄したというのに。

 エル・エルリオーネは俺とミューに柔和な笑みを見せている。


「ミュー。あなたは自分の意思を立派に示しました。その意思こそ、エルリオーネ家を継ぐのに必要なものだったのです」

「いしー? ミュー、おもしろいかたちの石ころ持ってるよー」

「あなたは克己の試練の最後を乗り越えたのです」

「よくわかんないけど、やったー」


 ミューが両手を挙げて喜びを示した。


「アッシュー。ミュー、試練を乗り越えたんだってー」

「そうらしいな」


 最後の試練は、答えの内容より、その示しかたが大事だったらしい。

 仮にミューがプリシラの幻影を短剣で貫いていたとしても、その覚悟を評価したのだろう。どうするべきか悩んだとしても、その葛藤をほめたに違いない。

 よく考えれば、これは10歳の子供に対する試練だもんな。


「アッシュー。ほめてほめてー」


 ミューにねだられる。

 俺は彼女の頭をやさしくなでる。

 彼女はくすぐったそうに目を細めていた。

 そんな俺たちをエルは微笑をたたえて見つめていた。


 部屋に機械が動く重い音が響いてくる。

 エルの背後に昇降機が降りてきた。


「帰り道を用意しました。これに乗って外へ出るのです」

「ありがとー。ばいばーい」


 手を振りながらエルから離れたミューが昇降機に乗る。

 続けて俺も昇降機に乗る。


「さらばです」


 昇降機が再び動き出す。

 天井が開き、昇降機が上昇していった。

 俺たちを見上げるエルの姿も、やがて見えなくなった。


「ミュー。ありがとう」

「どうしてアッシュがお礼を言うのー?」

「最後の試練で、プリシラを選んでくれたからさ」

「だってプリシラは、ミューのいちばん――」


 ミューの言葉が途中で途切れる。


「プリシラはいちばん大事な人だけど、アッシュもいちばん大事な人ー」

「そうか。なんか照れるな」

「だから結婚しよーねー」

「そ、それはまた別の話だ……」


 昇降機が止まった。

 昇降機から出た俺とミューは通路を歩き、そして扉の前に辿り着いた。

 その機械の扉には赤いマスが一つだけ灯っている。


 ミューが赤いマスに触れると色が青になり、扉が左右に割れてゆっくりと開きだした。

 広がっていく隙間から光が差し込んでくる。

 扉の向こうに誰かが立っている。


「ミュー!」


 扉が開くと、そこは外だった。

 そして扉の前でギザ卿とプリシラが待っていた。

 ギザ卿がミューを抱きしめる。


「えらいぞミュー! 試練を乗り越えたんだね!」

「アッシュのおかげー」

「アッシュさま。従者のお勤め、まこと感謝いたしますぞ」


 それからプリシラが俺のもとに駆け寄ってくる。


「お怪我はありませんか? アッシュさま」

「俺もミューも無事だ」

「よかったです」

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