43-2
休憩を終えて、再び試練に挑む。
通路の先にあったのは、大規模な昇降機だった。
俺とミューが昇降機に乗ると、古代語の音声が聞こえてきて、扉が閉まった。
昇降機が強く揺れる。
ふらついたミューが俺に抱きつく。
昇降機は重い音を響かせながら下へと降りていった。
物珍しいのか、ミューは下から上へ流れていく壁をガラス越しにじっと眺めていた。
昇降機の動きは遅く、流れる壁の模様がはっきり見える。
口を半開きにして壁の模様を目で追っているミュー。
彼女のつぶらな瞳がくりくりと動いている。
結構長い時間、昇降機は降り続けたが、その間、彼女は飽きもせず壁を見つめていた。
壁の流れが止まると、夢から覚めたようにミューは我に返った。
「とまったー」
「着いたみたいだな」
扉が開く。
昇降機は俺たちを最後の試練へと導いた。
それが最後とわかったのは、招かれた部屋の雰囲気が、これまでのものとは明らかに違っていたからだった。
声が反響するほど広い空間。
壁と床には細い線がいくつも引かれて模様をなしていて、ほのかに青白く光って照明になっていた。
俺たちの足元にも線が引かれている。
おそらく、この線に沿って先へ進めばよいのだろう。
ミューがサーカスの綱渡りみたいに、線の上に足を乗せて歩きだす。
彼女にかかれば、試練も楽しい遊びになるようだ。
俺たちは青白い線に導かれて空間の奥へと歩いていく。
「アッシュー。あれなにー?」
ミューが正面を指さした。
俺たちが歩く先――この広大な空間の中央に、巨大な多面体が浮遊していた。
以前、古代人の遺跡で見た水晶に似ている。
魔力も感じる。
とても強大な魔力だ。
浮遊する多面体の前まで辿り着く。
俺とミューは巨大なそれを見上げる。
すると、俺たちの前に突如として謎の人物が出現した。
妙齢の女性。
その女性は青みがかった色合いをしており、普通の人間ではないのがわかる。
そして、ときおりその姿が歪み、霊体かそれに近いものであるのがわかった。
「よくぞ克己の試練の最奥に辿り着きました。エルリオーネの一族よ」
「あなたはだれー?」
「わたくしはエルリオーネ家の始祖。エル・エルリオーネ」
「ご先祖さまー?」
「そうです。我が血を受け継ぎし者よ」
エルと名乗った女性は母親のような柔らかな笑みをたたえている。
ミューは自分の一族の始祖をぼーっと見上げていた。
エルと俺の視線が合う。
「従者よ。試練に挑みし者を守護した働き、まこと見事です。しかし――」
エルは不審げに眉根を寄せる。
「あなたからは常人ならぬ魔力を感じます。あなたは何者なのですか」
「俺はランフォード家の人間です」
「ランフォード……?」
首を傾げるエル。
おそらく彼女はランフォード家が興る前の時代の人間なのだろう。




