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二人きりになった俺はミューを連れて遺跡の奥へと進んでいった。
灰色の通路が延々と続く。
空気が冷たい。
俺とミューの靴が鳴らす固い足音だけが響いている。
「ぴかぴかー」
冒険者の俺にとっては見慣れた光景だったが、ミューにとっては物珍しいらしく、壁や天井に設置された電気の照明をじっと眺めていた。
俺はいつ魔物や機械人形が現れても対処できるよう、薄暗い空間でじっと目を凝らし、耳を澄まし、慎重に歩を進めていた。
やがて行き止まりにたどり着いた。
正方形の四角い空間に出る。
周囲にはなにもない。
天井がやたらと高く、見上げるとはるか上に小さな明かりがぽつんと灯っているのが見えた。
「ぴかぴかの壁ー」
「あっ、ミュー!」
ミューがなにかに興味を示し、俺から離れて部屋の奥へと走っていった。
慌てて彼女のそばに駆け寄り、肩をつかむ。
「俺から離れたらダメだって言っただろ」
「ぴかぴかしてるー」
ミューが興味を示しているのは、入り口から正面に位置する壁だった。
周囲が固い灰色のコンクリートの壁なのに対し、正面の壁だけは機械仕掛けで光っていた。
赤色に灯った小さい四角のマスが縦に3つ。横に3つ――合計9個並んでいる。
もしかして、これが最初の試練なのか。
遺跡の奥に進む仕掛けはこれくらいしか見当たらない。
おそらくこれが先へ進む扉なのだろう。
俺はそっと四角のマスに手を振れる。
しかし、扉は無言を貫いていた。
扉を開ける仕掛けかと思ったが、違ったらしい。
――と思いきや、ミューが背伸びして四角のマスに手を振れると、ポーンと心地よい音が鳴ってマスの色が青色に変わった。
「ぴかぴかー。きれいー」
ミューが続けて他のマスにも触れていく。
彼女が触れた下段1列の3マスが青色に染まった。
「アッシュー。だっこー」
俺はミューを抱きかかえる。
2列目以降のマスに届くようになったミューは、次々とマスに触れ、色を赤から青に変えていった。
そして9マスすべて青色に変わると、扉が上にせり上がった。
道ができた。
「先にすすめるー」
「マスを赤から青に変えると開く扉なんだな」
俺が触れても色が変わらなかったのは、試練に挑む者ではないからだろう。
扉の先へと進む。
すると、再び同じような正方形の部屋があった。
部屋の奥には扉。
そしてその道を阻むように立つ、クモ型の機械人形。
ここは俺の出番だ。
俺たちを認識した機械人形が、多数の足を動かして急接近してくる。
「貫け雷!」
閃光と耳をつんざく雷鳴と共に、手から雷が放たれる。
雷は襲いくる機械人形に直撃し、吹き飛ばした。
機械人形は空中で爆ぜ、床に落ちるころにはガラクタと化していた。
「びっくりしたー」
ミューはつぶらな瞳をぱちぱちとさせていた。




