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42-2

 エルリオーネ家には長年、克己の儀式の従者を担ってきた老騎士がいたのだという。

 ところが3年前、高齢ということもあり、その老騎士はエルリオーネ家から去ってしまったのだった。

 ギザ卿は、せめてミューの従者をしてほしいと頼んだのだが、彼は腰を痛めてしまい剣を握れなくなり、その申し出を断ったのだった。


「その従者の役目を俺に?」

「アッシュさまは腕の立つ冒険者だとギルドから聞いています。それに『稀代の魔術師』の後継者だとも。どうかミューの従者となり、克己の試練を成し遂げる手伝いをしてください」


 ミューに目をやる。

 彼女はこくりこくりと首を上下させて、イスに座ったまま寝ている。

 細い腕と足。小さな身体。

 こんな幼い少女が危険な遺跡に入らなくてはならないだなんて。


 俺がミューを守れるなら力になってあげたい。俺にはその力がある。

 そんな思いがわいてくる。


「私も無償で頼もうとは思っていません。――おい、あれを持ってこい」

「かしこまりました」


 ギザ卿に命じられた執事が食堂を出る。

 それからしばらくして、執事は一冊の分厚い書物を持って戻ってきた。

 古びた本だ。

 金色の縁取りがされた装丁から、価値のある書物だとわかる。


「これは『ゴスペル』と呼ばれる、エルリオーネ家に伝わる魔書でございます。ミューの儀式が成し遂げられたあかつきには『ゴスペル』をアッシュさまに差し上げましょう」


 ギザ卿から『ゴスペル』を受け取って中身を読んでみる。

 厚い表紙を開いてページをめくっていく。

 ……。

 ……残念だが、魔法に関して全く学の無い俺にはその価値は見極められなかった。

 スセリの『オーレオール』がすらすらと読めるのは、俺が後継者だからなのだろう。


 とはいえ、答えはもう決まっている。


「アッシュさま。ミューさまを」


 プリシラが心配そうに見つめてくる。

 俺は彼女に応えるよう「ああ」とうなずく。


「わかりました。この件、お引き受けいたします」

「おおっ! ありがとうございます!」

「ふえ……?」


 ギザ卿が大声を上げたせいでミューが目を覚ましてしまった。


「ミュー。アッシュさまが儀式の従者になってくれたよ」

「ふえー」


 ミューは眠たげな目をこすりながら俺を見つめてくる。

 そしてにこっと笑った。


「ありがとー」


 ぴょんとイスを飛び降りて、俺のそばまでとてとてと駆け寄ってくる。

 そして俺の腕をぎゅっとつかんだ。


「いっしょにがんばろーねー」


 俺は自然と笑みをこぼしていた。

 愛おしい。

 彼女を一言で現すなら、その言葉が似合っていた。


 辺境の屋敷で静かに暮らす、ちっちゃなお姫さま。

 その騎士に俺は選ばれた。

 ならば騎士としての使命をまっとうしよう。

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