41-7
またうかつなことをしてしまった……。
身から出たさびとはいえ、俺は困り果てた。
屋敷の主人は俺の手を取ってぶんぶん上下に振っている。
名門ランフォード家と親族になれる絶好の機会を逃すまいという勢い。
「アッシュ、やさしいー。いい人ー」
にこにこしているミュー。
プリシラはというと、マリアやスセリが俺に好意を示したときと同じように、やはり複雑そうな表情をしていた。
「アッシュとミューが結婚したらー、プリシラともずっといっしょー」
「はう……。それはそうなのですが……」
ここはしっかり言っておかないと、プリシラがかわいそうだ。
「ギザ卿」
俺はミューの父親で屋敷の主人――このギザの地の領主であるギザ卿にこう言った。
「俺はミューとは結婚しません」
「今は――ですな?」
「い、いえ……。俺にはまったく結婚する意思はありません」
「ですが、他に結婚の約束をされている女性はいないとおっしゃっていましたよね。でしたら、是が非でも我が娘、ミューと婚約してください。そうだ。アッシュさまのお父上とも一度、お話ししましょう」
まずい。
親同士の縁談となると、俺は口を出せなくなる。
万が一にでも父上がミューとの結婚を承諾したら、俺は彼女と結婚せざるを得なくなる。
ミューの一族エルリオーネ家は俺の一族ランフォード家より貴族としての格は下。
しかし、ランフォード家はアークトゥルス地方に親族がいない。
俺がミューと結婚するとこで、大都市ケルタスのあるアークトゥルスに縁者を増やすのは良い案だと父上は考える可能性はじゅうぶんある。
「アッシュさま。一度お父上とお話をさせてください」
「そ、それは……」
「パパー」
困っていたそのとき、ミューがギザ卿の服を引っ張った。
「おなかへったー」
「ん? そうか。もう夕食の時間か。アッシュさま、この話はひとまず置いておくとして、お食事にしましょう」
助かった。
とはいえ、一時しのぎにすぎないが。
ギザ卿が俺たちの前から去っていく。
残ったのは俺とプリシラとミューの三人。
視線が気になる……。
背の低いミューが俺のことを見上げている。
「アッシュはー、ミューと結婚したくないのー?」
首をかしげて尋ねてくるミュー。
その表情は少し不満げだ。
「俺たちはまだ出会ったばかりだ。結婚の話をするには早すぎるさ」
「まずはお友だちから――ですよねっ」
プリシラが加勢してくれる。
「お友だちになったらー、結婚してくれるー?」
「それはお互いのことをもっと知ってから考えることだ」
「むー」
ミューがほっぺたをふくらませる。
きっと彼女は欲しいものはなんでも与えられてきたのだろう。彼女はギザの地にあるエルリオーネ家のお姫さまなのだから。
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