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プリシラは落ち着かないようすでロビーをきょろきょろ見回している。
緊張した面持ち。
しばらくすると、正面の扉が開き、一人の男と執事らしき老人が現れた。
「あやつがこの屋敷の主人じゃな」
小声でスセリが言う。
屋敷の主人が大股でずかずかとプリシラの前へと歩いてくる。
プリシラは背筋をぴんと伸ばしていた。
屋敷の主人がプリシラをにらみつける。
「お前、半獣か!」
「えっ!?」
プリシラが目をしばたたかせる。
それからこの男が嫌悪の目で見ているのがわかったのだろう。彼女は表情を曇らせた。
「は、はい……」
「俺は一流のシェフを頼んだんだぞ! それでよこしてきたのが半獣の小娘とはな!」
忘れていた。
プリシラが――半獣が差別されている種族であったのを。
ケルタスでは出会う人間にめぐまれていたから、プリシラは他の人たちと対等に接していたが、本来はこういう態度をされてもおかしくなかったのだ。むしろ、こういう反応をされるのが当たり前だったのだ。
「冒険者ギルドなぞに依頼した俺がバカだった」
「あっ、あの!」
プリシラが意を決して言葉を発する。
「わ、わたし、料理なら自信があります。ですから、お手伝いさせてくださいっ」
「半獣ごときがウチのシェフの代わりになるわけないだろう!」
屋敷の主人の強い語気に押されるプリシラ。
「失せろ!」
「……スセリ」
俺はスセリに耳打ちする。
「俺の魔法を解いてくれ」
「解いてどうするのじゃ」
「屋敷の主人を説得する」
このままではプリシラがあまりにもかわいそうだ。
「スセリはこうなるのを予想してたから後をつけてきたんだろ。俺が姿を見せてランフォード家の名を出せば、きっとプリシラを働かせてくれる」
と、そのときだった。
「パパー。どうしたのー?」
一人の小さな少女がロビーに現れたのは。
眠たげな顔をした、あどけないその少女はクマのぬいぐるみを抱いている。
「ミュー」
ミューと呼ばれたその少女が現れたとたん、どう猛な獣の顔つきだった屋敷の主人の顔がほころんだ。
屋敷の主人の娘らしい。
「わー、あなたー、動物のお耳があるー」
「ふえっ!?」
ミューがとてとてとプリシラの前まで小走りで駆け寄ってくる。
そして背伸びし、彼女の獣耳に手を伸ばした。
動揺する屋敷の主人。
「こ、これ、ミュー。汚いからやめなさい」
「汚くないよー。かわいいお耳だよー」
ミューはプリシラに笑顔を向けた。
「ミューの名前はミュー。あなたのお名前はー?」
「え、えっと、プリシラです」
「プリシラー。ミューとお友だちになってー?」
人物紹介
【ミュー】
貴族の娘。
ふんわりほわほわした性格の女の子。




