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38-6

 プリシラは落ち着かないようすでロビーをきょろきょろ見回している。

 緊張した面持ち。

 しばらくすると、正面の扉が開き、一人の男と執事らしき老人が現れた。


「あやつがこの屋敷の主人じゃな」


 小声でスセリが言う。

 屋敷の主人が大股でずかずかとプリシラの前へと歩いてくる。

 プリシラは背筋をぴんと伸ばしていた。

 屋敷の主人がプリシラをにらみつける。


「お前、半獣か!」

「えっ!?」


 プリシラが目をしばたたかせる。

 それからこの男が嫌悪の目で見ているのがわかったのだろう。彼女は表情を曇らせた。


「は、はい……」

「俺は一流のシェフを頼んだんだぞ! それでよこしてきたのが半獣の小娘とはな!」


 忘れていた。

 プリシラが――半獣が差別されている種族であったのを。

 ケルタスでは出会う人間にめぐまれていたから、プリシラは他の人たちと対等に接していたが、本来はこういう態度をされてもおかしくなかったのだ。むしろ、こういう反応をされるのが当たり前だったのだ。


「冒険者ギルドなぞに依頼した俺がバカだった」

「あっ、あの!」


 プリシラが意を決して言葉を発する。


「わ、わたし、料理なら自信があります。ですから、お手伝いさせてくださいっ」

「半獣ごときがウチのシェフの代わりになるわけないだろう!」


 屋敷の主人の強い語気に押されるプリシラ。


「失せろ!」

「……スセリ」


 俺はスセリに耳打ちする。


「俺の魔法を解いてくれ」

「解いてどうするのじゃ」

「屋敷の主人を説得する」


 このままではプリシラがあまりにもかわいそうだ。


「スセリはこうなるのを予想してたから後をつけてきたんだろ。俺が姿を見せてランフォード家の名を出せば、きっとプリシラを働かせてくれる」


 と、そのときだった。


「パパー。どうしたのー?」


 一人の小さな少女がロビーに現れたのは。

 眠たげな顔をした、あどけないその少女はクマのぬいぐるみを抱いている。


「ミュー」


 ミューと呼ばれたその少女が現れたとたん、どう猛な獣の顔つきだった屋敷の主人の顔がほころんだ。

 屋敷の主人の娘らしい。


「わー、あなたー、動物のお耳があるー」

「ふえっ!?」


 ミューがとてとてとプリシラの前まで小走りで駆け寄ってくる。

 そして背伸びし、彼女の獣耳に手を伸ばした。

 動揺する屋敷の主人。


「こ、これ、ミュー。汚いからやめなさい」

「汚くないよー。かわいいお耳だよー」


 ミューはプリシラに笑顔を向けた。


「ミューの名前はミュー。あなたのお名前はー?」

「え、えっと、プリシラです」

「プリシラー。ミューとお友だちになってー?」



人物紹介

挿絵(By みてみん)

【ミュー】

貴族の娘。

ふんわりほわほわした性格の女の子。

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