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もしかすると、俺たちが今やっていることは、おせっかいのなのだろうか。
俺もプリシラもマリアも、やがては老い、死ぬ。
離別のつらさを再びセヴリーヌに味わわせてしまう。
「アッシュよ。おぬしのやっていることは正しいのじゃ」
「だから、勝手に心を読むなよ」
「これからもセヴリーヌのそばにいてやるのじゃ」
「でも、俺だっていつまでもあの子のそばにいてやれるわけじゃない。俺が彼女の前からいなくなるとき、彼女を悲しませてしまう」
「それは不老の身である者の宿命。受け入れねばならんのじゃ。離別を恐れて他人と接するのを拒絶しては、それこそ生きている意味がないのじゃ」
そうだな。
セヴリーヌには必要だ。楽しい思い出を作ってくれる友達、あるいは家族が。
あんなちっぽけな家に、永遠にひとりぼっちで暮らすなんて悲しすぎる。
「なあ、スセリ。スセリはつらかったか? リオンさんっていうんだっけか。旦那さんに先立たれて」
「夫を亡くして悲しくないわけなかろう」
「そ、そうだよな。なんか、スセリが悲しむのってあんまり想像できなくてな」
「失礼じゃのう。のじゃじゃじゃじゃっ」
そう言いながらもスセリはいつもの変な声で笑った。
「アッシュよ。おぬしはリオンに似ておる」
「まあ、俺はリオンさんの子孫だからな」
「だから自然とセヴリーヌはおぬしに惹かれたのじゃろうな」
セヴリーヌはリオンさんに恋をしていたという。
結果として、リオンさんはスセリと結婚することになったのだが。
スセリが俺の背後にまわる。
そしていきなり、俺の背中に抱きついてきた。
「本当に、おぬしは似ておるのじゃ。ワシの愛したリオンに」
そうささやく。
首筋に吐息がかかる。
ど、どぎまぎする……。
「そ、そういう悪ふざけはやめろよ」
「悪ふざけなどではないのじゃ。おぬしがワシを求めるならば、ワシはよろこんでそれに応じるのじゃ」
長い銀色の髪が、視界の端できらきらと月の光を跳ね返している。
彼女の体温が背中から伝わってくる。心地よいぬくもりだ。
「一夜限りでも構わんぞ。ワシは貞操なぞ大してこだわっておらんからの」
「俺は気にする。っていうか、スセリも気にしろ」
スセリを背中から引きはがす。
やはり俺をからかって楽しんでいたらしい。スセリは「のじゃじゃじゃっ。初々しいのう」と俺の反応を面白がっていた。
くやしくも、俺の胸はドキドキしていた。
自分の子孫を誘惑するなんて、スセリは本当に変人だ。
「まあ、よい。いずれにせよ、ワシとおぬしは未来永劫共にある身なのじゃからな」
「な、なに……?」
「魔書『オーレオール』を継承した者の宿命なのじゃ。おぬしにはワシと共に歩むのじゃ――野望の道を。それにはまず、精霊剣承を果たさねばな」
精霊剣承。
いつだか夢の中で聞いたその言葉をスセリが口にした。




