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37-5

 もしかすると、俺たちが今やっていることは、おせっかいのなのだろうか。

 俺もプリシラもマリアも、やがては老い、死ぬ。

 離別のつらさを再びセヴリーヌに味わわせてしまう。


「アッシュよ。おぬしのやっていることは正しいのじゃ」

「だから、勝手に心を読むなよ」

「これからもセヴリーヌのそばにいてやるのじゃ」

「でも、俺だっていつまでもあの子のそばにいてやれるわけじゃない。俺が彼女の前からいなくなるとき、彼女を悲しませてしまう」

「それは不老の身である者の宿命。受け入れねばならんのじゃ。離別を恐れて他人と接するのを拒絶しては、それこそ生きている意味がないのじゃ」


 そうだな。

 セヴリーヌには必要だ。楽しい思い出を作ってくれる友達、あるいは家族が。

 あんなちっぽけな家に、永遠にひとりぼっちで暮らすなんて悲しすぎる。


「なあ、スセリ。スセリはつらかったか? リオンさんっていうんだっけか。旦那さんに先立たれて」

「夫を亡くして悲しくないわけなかろう」

「そ、そうだよな。なんか、スセリが悲しむのってあんまり想像できなくてな」

「失礼じゃのう。のじゃじゃじゃじゃっ」


 そう言いながらもスセリはいつもの変な声で笑った。


「アッシュよ。おぬしはリオンに似ておる」

「まあ、俺はリオンさんの子孫だからな」

「だから自然とセヴリーヌはおぬしに惹かれたのじゃろうな」


 セヴリーヌはリオンさんに恋をしていたという。

 結果として、リオンさんはスセリと結婚することになったのだが。


 スセリが俺の背後にまわる。

 そしていきなり、俺の背中に抱きついてきた。


「本当に、おぬしは似ておるのじゃ。ワシの愛したリオンに」


 そうささやく。

 首筋に吐息がかかる。

 ど、どぎまぎする……。


「そ、そういう悪ふざけはやめろよ」

「悪ふざけなどではないのじゃ。おぬしがワシを求めるならば、ワシはよろこんでそれに応じるのじゃ」


 長い銀色の髪が、視界の端できらきらと月の光を跳ね返している。

 彼女の体温が背中から伝わってくる。心地よいぬくもりだ。


「一夜限りでも構わんぞ。ワシは貞操なぞ大してこだわっておらんからの」

「俺は気にする。っていうか、スセリも気にしろ」


 スセリを背中から引きはがす。

 やはり俺をからかって楽しんでいたらしい。スセリは「のじゃじゃじゃっ。初々しいのう」と俺の反応を面白がっていた。

 くやしくも、俺の胸はドキドキしていた。

 自分の子孫を誘惑するなんて、スセリは本当に変人だ。


「まあ、よい。いずれにせよ、ワシとおぬしは未来永劫共にある身なのじゃからな」

「な、なに……?」

「魔書『オーレオール』を継承した者の宿命なのじゃ。おぬしにはワシと共に歩むのじゃ――野望の道を。それにはまず、精霊剣承を果たさねばな」


 精霊剣承。

 いつだか夢の中で聞いたその言葉をスセリが口にした。

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