37-3
プリシラはメイドらしく、うやうやしくおじぎをした。
しん、と静寂が訪れる。
俺と、そしておそらくマリアとセヴリーヌも、プリシラが続きの言葉を発するのを待っていた。
しかし、それきりプリシラはなにも言わない。
スセリだけが一人、目論み通りといった笑みを浮かべていた。
「プリシラ……それだけか?」
「はいっ」
元気にうなずくプリシラ。
それで静寂がやぶられ、セヴリーヌが「おいっ」と言った。
「お前はアッシュと結婚しなくていいのか」
「アッシュさまと夫婦になれるのは、えっと……とてもステキな……」
恥じらうプリシラは語尾をにごして返事をごまかす。
そしてこう言い直す。
「わたしの今の願いは、アッシュさまと共にいられることです。メイドとして」
「それじゃあ今までと変わらないだろ」
「はい。今までと変わらないことが、わたしの願いなのです」
けなげな、彼女らしい願いだ。
口を開けて呆けていたマリアだったが、やがてプリシラのけなげさに感心して「とてもよい願いですわ。プリシラ」と言った。
セヴリーヌはなおも首をかしげていた。
「アタシだったらアッシュと結婚するぞ。ヘンなヤツだな」
「結婚というのは、恋という道の先にあるもの。こういうたわむれでかんたんに決めていいものではないとわたしは思うのです」
まったくそのとおりだな……。
スセリのお遊びに巻き込まれた挙句、結婚させられたらたまらない。
……とはいうものの、プリシラと結婚するのが嫌かと問われたら、首を横に振らざるを得ないが。
「そういうわけで、この決闘はプリシラの勝利にて終わりなのじゃ。楽しかったじゃろ? セヴリーヌよ」
「ま、まあな……」
「これからはアッシュだけでなく、わたくしたちもボードゲームに誘ってくださいまし。セヴリーヌさま」
「わ、わかった……」
うまくはぐらかしたな、スセリ。
俺をかけたスセリとセヴリーヌの決闘だったはずが、いつの間にかみんなでゲームをすることになっていた。
そしてその勝者は第三者かつ、平和的な願いを言うであろうプリシラになるよう、スセリはゲームを操作した。
まんまとスセリの手のひらで踊らされたというわけだ。
それから俺たちはボードゲームの世界から、もとの世界へと戻ってきた。
日はとっくに暮れ、夜になっていた。
夜空には星々と月。
黒い海に、歪んだ月が映っている。
スセリが「うーん」と背伸びする。
「疲れたのじゃ。やはり仮想世界を維持するのは苦労するのじゃ」
「すごいですわね、スセリさま。ボードゲームの世界をつくることができるだなんて」
「なんといってもワシは『稀代の魔術師』じゃからな」
「アタシもできるぞ」
セヴリーヌが対抗してきた。




