37-2
「……!」
ダイスは6の目を出した。
「やりましたっ。やりましたよアッシュさまっ!」
プリシラがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「このプリシラ、アッシュさまのために6を出しました!」
「すごいな。プリシラは」
「てへへ」
俺は彼女の耳の付け根をなでた。
間違いなく、スセリがダイスを操作したんだろうな。
と内心思いながら。
「そ、そんな……」
その場にへたりこみ、がく然とするセヴリーヌ。
マリアも残念そうにしているものの、彼女ほど落胆してはいなかった。
「残念でしたわね、セヴリーヌさま」
「マリアはどうしてそんな落ち着いてるんだ。くやしくないのか。アッシュがプリシラのものになっちゃったんだぞ」
「くやしくないと言えばウソになりますけれど――」
マリアは指輪がはめられた手を見せる。
「この指輪がある限り、わたくしとアッシュはいずれ必ず結ばれるのですわ」
だからそんな余裕でいられたのか。
プリシラが俺の服の袖を引っ張る。
「さあ、アッシュさま。共にゴールへ行きましょう」
俺とプリシラは並んで歩いてマスを進み、「せーの」でゴールマスに飛び乗った。
その瞬間、「パンッ、パンッ」と火薬の炸裂する音が連続して鳴り、色とりどりの紙ふぶきが舞って俺たちのゴールを称えてくれた。
「一番乗りおめでとう、なのじゃ」
拍手するスセリ。
「プリシラよ。これでおぬしはアッシュに好きな命令をすることができるのじゃ。なにを命じるかは、まあ、一つしかないじゃろう?」
「はいっ」
元気にうなずくプリシラ。
いよいよ覚悟するときがきたか……。
マリアとセヴリーヌは、俺との結婚を望んでいた。
そしておそらく、プリシラも。
決してうぬぼれでそう思っているわけではない。
ランフォード家を追放されたとき、一人ついてきてくれた彼女。そしてこれまでもずっと俺と共にいてくれた。主従関係を超えて慕ってくれている。
俺だってプリシラをただのメイドだなんて思ってはいない。
彼女が望むのなら、受け入れよう。
こんなに慕ってくれている少女と結婚できるのなら、これほど幸福なことはない。
「アッシュさま」
プリシラが俺のほうを向く。
俺も彼女と正面から向き合う。
動悸がする。
彼女に見つめられて緊張していた。
見つめる彼女も頬を赤らめながらはにかんでいる。
かわいい。
愛おしい。
今、この瞬間ほどプリシラを愛しく想ったことはなかった。
「わたしの願いはただ一つ」
ひと呼吸おいて、プリシラはこう言った。
「これからもアッシュさまのおそばにいさせてください」




