表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

236/842

34-4

 そして夜になった。

 俺とプリシラは『夏のクジラ亭』を抜け出して、冒険者ギルドの屋上にいた。

 マリアには内緒で。

 プリシラに「アッシュさまと二人きりがいいです」とお願いされたからだ。

 スセリはフーガさんの手伝いがあるらしく、彼と共にどこかへ行ってしまった。


「楽しみですね、アッシュさま」


 わくわくしているプリシラ。

 フーガさんによると、今夜、空を見上げると面白いものが見られるという。

 魔杖ガーデットに蓄積された魔力を解放するとのこと。

 大規模な魔法を空に放つのを見られるのかもしれない。


 屋上には俺とプリシラの他にも結構な数の冒険者たちがいて、テーブルに着いて酒を飲んだり食事をとったりしていて、夜だというのに賑わっていた。

 冒険者ギルドは、夜は屋上で酒場を経営しているのである。

 職員のオーギュストさんいわく、結構な収入源になっているらしい。特に夏の時期は、依頼の斡旋料による収入に匹敵する日もあるのだとか。

 俺たちも軽食を買って二人で食べていた。


 夜空には数え切れないほどの星がまたたいている。

 そして屋上から見下ろすケルタスの街も、街灯の灯りや建物の窓からこぼれる光で、まるで地上の星のように美しく光っていた。


「あのとき、アッシュさまと共に旅立つことを決意してよかったです」


 あのとき、とは、父上にランフォード家追放を言い渡されたときだろう。


「やっぱり迷ったのか?」

「いえ、迷いはしませんでした。わたしはアッシュさまのためにランフォード家で働いていたのですから」


 あのときから今まで、プリシラは俺のそばにずっといてくれている。


「けど、プリシラ。ケルタスでの生活で自分のやりたいことを見つけたら、遠慮なくそれをしていいからな。俺にも、冒険者であることにも、こだわる必要はないんだから」

「やはりお優しい方ですね。アッシュさまは」


 ですが、とプリシラは続ける。


「わたしにとって、アッシュさまがすべてなのはこれからも変わりません。未来永劫、おそばにいます」

「プリシラ……」

「わたしはとっくに見つけているんです。自分のやるべきことを。自分の居場所を」


 手を後ろに回し、笑みを浮かべるプリシラ。


「あなたのとなりが、わたしの居場所ですっ」


 そのとき、空が赤く光った。

 わずかに遅れて「ドーンッ」という爆発音が遠くから響いてくる。

 赤、青、緑、と空がまたたく間に色を変えていく。


「花火ですっ」


 屋上にいた冒険者たちがざわつきだす。

 プリシラが海辺を指さす。

 そこから小さな光の点が空に昇っていき、頂点に達したところで爆発を起こし、色とりどりの光の花を咲かせた。

 見事な大輪の花だった。


 フーガさんの言っていた「面白いもの」ってこれだったんだな。

 魔杖ガーデットに蓄積されていた魔力は、花火として放出されたのだった。

 きっとスセリが教えたんだな。


「きれいです……」


 花火を見上げるプリシラ。

 その瞳に、夜空に咲く花火が映っている。

 俺は彼女の横顔にしばし見とれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ