33-2
「アッシュ! どこをほっつき歩いてましたの!」
宿に帰るや、マリアに叱られてしまった。
俺がセヴリーヌの家に言ったことを告げると、マリアだけでなく、スセリも意外そうな表情になった。そして彼女と半日遊んだと説明すると、さらに驚いたのであった。
「あやつがおぬしと遊んだのか。信じられん」
「俺もそう思う」
どうして彼女に気に入られたのか。ふしぎだ。
あごに手を添えて考え込んでいたスセリが「いや」とつぶやく。
「案外おぬしとあやつは相性がいいのかもしれん」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味なのじゃ」
はぐらかされてしまった。
俺とセヴリーヌが相性がいい……?
一体なにを根拠にスセリはそう思ったのだろう。
「それよりもアッシュ。見てくださいまし」
「見る? なにをだ?」
「プリシラ。お入りなさい」
マリアが廊下のほうに呼びかけると、食堂にプリシラが入ってきた。
さっきからプリシラの姿が見えないと思ったが、隠れていたらしい。
「は、恥ずかしいです……」
プリシラはいつものメイド服を着ていなかった。
彼女が今、着ているのは真っ白なワンピース。
フリルがふんだんにあしらわれた、かわいらしい衣装だ。
恥ずかしいのか、プリシラはうつむいたままもじもじしていた。
「さあ、顔を上げなさい。プリシラ」
「は、はい……」
マリアに促されて顔を上げると、俺と目が合う。
「に、似合っていますか? アッシュさま」
「……すごく似合ってる」
お世辞ではない。
俺はワンピース姿の彼女に見入っていた。
いつもメイド服を着ているから、私服に着替えた彼女の姿がとても新鮮に映った。
清楚な白いその衣装はプリシラにとても似合っている。
貴族のお嬢さまと言えば、誰もが騙されるだろう。
「かわいいぞ。プリシラ」
俺がそう言うと、プリシラは頬を朱に染めながら表情を緩ませた。
「てへへ……。アッシュさまに褒められてしまいました。日記に書いておかなくちゃ」
「よかったですわね。プリシラ」
マリアも微笑ましげだった。
「ところで、マリアとスセリは服を買わなかったのか?」
「買ったのじゃ」
「買いましたけど、プリシラのお披露目をじゃまするようなマネはしませんわよ」
なるほど。
二人とも、プリシラに今日の主役を譲ったんだな。
プリシラがくるりと一回転する。
長いスカートがふわりと舞った。
かわいい。
愛おしい。
心からそう思った。
プリシラがその服を着たのは、ランフォード家のメイドから別の道へと進む第一歩な気がした。
差別されし種族、半獣。
もとは奴隷で、ランフォード家にメイドとして仕えていたプリシラ。
その束縛から解かれた今、このケルタスで自分の進むべき道を見つけてほしい。
それが俺の願いだった。




