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33-1

「よっしゃーっ。アタシの勝ちだーっ」


 セヴリーヌはぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを身体いっぱいで表現した。

 どうやら楽しんでもらえたようだ。

 緊張が解けた俺はほっと息をついた。


「それにしてもお前、ぜんぜんよわっちいなー。もうちょっと歯ごたえがないと戦い甲斐がないぞ」

「ははは……」


 俺は苦笑いするしかなった。

 はぁ……。

 心の中でため息をついた。


「もう一回。もう一回するぞ」

「えっ!?」


 セヴリーヌが二人のコマを振り出しのマスに戻す。

 ま、またやらなくちゃいけないのか!?


「もう一回アタシと勝負だ。今度は手加減してやるぞ」


 目をきらきらと輝かせているセヴリーヌ。

 俺とのゲームがよほど楽しかったらしい。

 俺は覚悟を決め、彼女とのゲームに挑んだ。


 二回目のゲームも俺は魔法で密かにダイスを操作し、セヴリーヌを接待した。

 今度は接戦になるよう、そして彼女がいい感じに勝つよう、気をつけて。


「へへっ。またアタシの勝ちだなっ」


 ダイス一回分の差でセヴリーヌが先にゴールした。

 今度もなんとか勝たせてあげられた……。

 俺は額に浮かんだ汗をぬぐった。


「ゲームってこんなに楽しいんだなっ。知らなかったぞ」


 屈託のない笑顔のセヴリーヌ。

 こうしてみると、本当に純真無垢な少女だ。

 彼女が不老の魔術師だと信じられなくなりそうだった。


「ゲームはみんなでやるから楽しいんだ。一人でやるんじゃなくて、スセリでも誘えばいい」

「あいつとなんか誰がやるかっ」


 やっぱり嫌われてるんだな、スセリ……。


「アタシはお前と遊びたい。これから毎日遊びにこいよっ」


 服の裾を引っ張ってそうせがんでくる。

 そんなけなげな少女に誰が『嫌』と言えるだろう。


「プリシラやマリアを連れてきてもいいか?」

「ダメだ。お前だけだ」


 もしかして彼女、結構人見知りするのだろうか。


「お前一人でアタシの家にこい」

「……わかった。一人で来るよ」

「わーいっ」


 両手を挙げてセヴリーヌははしゃいだ。

 かわいいところもあるじゃないか。


「次はカード! カードゲームで遊ぶぞ」


 俺とセヴリーヌは二人でゲームに明け暮れた。

 そして気が付くと、四角い窓から夕暮れのオレンジ色の光が差し込む時刻になっていた。


「そろそろ帰らないと」

「えっ、帰るのか?」


 しゅんとなるセヴリーヌ。

 そして俺の服の袖をつかむ。


「帰るなよ。アタシの家に泊まっていけ」

「そうしてもいいけど、クラリッサさんたちが心配するから」

「……なら、しょうがないな」


 彼女はしぶしぶ裾をつかんでいた手を離した。


「明日も遊びにこいよ」

「来るよ」

「約束だぞ」

「ああ。約束だ」

「ぜったいだからな! 忘れたら許さないぞ」

「忘れるわけないだろ」


 彼女のいじらしさに、俺は思わず笑みをこぼしてしまった。

 彼女と約束を交わして家を出る。


「ありがとうございます、アッシュさま」


 玄関の前にいたゴーレム、ウルカロスがそう言った。


「久しぶりです。セヴリーヌさまのあんな声を聞いたのは。これからも我が(あるじ)の遊び相手になってください」


 そうして俺は帰路に着いたのだった。

 『夏のクジラ亭』に帰るころには、陽は地平線の彼方に没し、星がまたたき月がおぼろに光る夜空になっていた。

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