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32-6

「セヴリーヌはさみしがらないのか?」


 ケルタスを出て街道を歩く俺とウルカロス。

 ずしん、ずしん、ずしん……。

 ウルカロスの重い足音が響く。


「セヴリーヌさまは、孤独に慣れてしまったのでしょう」


 セヴリーヌは時間凍結の魔法で自分に流れる時間を止めた。

 そうして肉体と精神を永遠に子供のままに留めたのだ。

 誰もが望む不老となった彼女。

 その代償がどのようなものか、俺に知るすべはない。

 ただ、ウルカロスの言う『孤独』がどのようなものかはなんとなくわかった。


「アッシュさまは今日はお一人なのですか」

「ああ。プリシラたちは女の子だけで買い物にいったんだ」

「そうですか。それでは退屈しのぎに、ぜひとも我が(あるじ)に会ってください」

「お前の主は歓迎するかな?」

「しないでしょうね」


 ウルカロスが冗談っぽくそう答えた。


「しかし、アッシュさまならセヴリーヌさまの孤独を癒せると思います」

「ウルカロスじゃダメなのか?」

「わたくしはしょせん、ゴーレムですので」

「でも、俺たちと普通に意思疎通できてるじゃないか」

「あの方には人間が必要なのです」


 ウルカロスが言うに、セヴリーヌは長く生きている間に人との接触を避けるようになったらしい。

 昔は友人と言える人もいたという。

 しかし、その友人たちは皆、年老い、生をまっとうしてしまった。

 それからセヴリーヌは他人とのかかわりを避けだしたのだという。


 同い年くらいだった友人たちが大人になって、やがて老いていく中、自分だけ子供のまま。

 それが彼女に孤独を感じさせたのかもしれない。



 セヴリーヌの家に到着した。

 玄関の扉をノックする。


「誰だ」

「俺だよ。アッシュだ。弁当を持ってきたぞ」


 しばしの沈黙の後、再び返事がきた。


「入れ」


 許可を得た俺は彼女の家へと足を踏み入れた。


 家の中は相変わらずガラクタで散らかっていた。

 足の踏み場もないとはこのこと。

 プリシラがこの様子を目の当りにしたら卒倒しそうだ。


 セヴリーヌはテーブルに着いていた。

 テーブルにはボードゲームが置いてある。

 ダイスを転がして、出た数字の分だけコマを進める、いたって普通のボードゲーム。

 ボードには四つのコマが置かれていた。


「セヴリーヌ。なにしてるんだ?」

「見りゃわかるだろ。ゲームをしてたんだ」


 ダイスを転がすセヴリーヌ。

 出た数字は6。

 セヴリーヌは赤いコマを6マス進める。

 そして再びダイスを転がし、今度は青いコマを出た数字の分、進めた。


 セヴリーヌ、もしかして――いや、もしかしなくても、一人でボードゲームで遊んでる!?

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