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32-2

「我々精霊竜が危惧した事態が起きました。ガルディア家が四魔の一体、悪魔アズキエルを使役しようと企んだのです」

「そしてその結果はお前の知ってるとおりだ」


 ガルディア家はアズキエルを従えるのに失敗し、パスティアを滅ぼされかけたところでかろうじて封印するに至った。そして封印した二つの宝珠を子孫に託した。


「四魔は、世界を破滅に導く危険をはらんでいるのです」


 知らなかった。

 俺たちの戦った悪魔がそんな強大な存在だったなんて。


「彼女の言うとおり、悪魔アズキエルは四魔の中では最も力の弱い悪魔です。他の三体はアズキエルとは比較にならぬ力を持っています」


 そのとき、俺の目の前に剣が現れた。

 細身の美しい、白銀の剣。

 その剣は地面に突き刺さっていて、半分ほどしか刀身を見せていなかった。


「アッシュ。あなたに四魔を倒す力があるのなら、その『精霊剣』を引き抜けるはず」


 精霊剣。

 それがこの白銀の剣の名前らしい。


「さあ、アッシュ。精霊剣を引き抜くのです」

「無駄ですよ。こいつに精霊剣を抜けるわけがありません」

「いいえ。私はアッシュに可能性を見出しました。彼なら精霊剣承をなせると確信しています」


 俺は精霊剣の柄を握る。

 そのようすを精霊竜とツノの少女が黙って見守っている。

 俺は柄を握る手に力を入れ、そして剣を引き抜こうと腕を引いた。


 ――が、しかし。


 精霊剣はあっけなく折れた。


「なっ!?」

「ウソッ!?」

「こ、これは……!」


 俺の手にあるのは、半ほどで刀身が折れた精霊剣。

 ツノの少女はあごが外れたかのように口を大きくあけている。

 精霊竜も目を大きく見開いていた。


「まさか……夢の世界で作り出した模造の精霊剣とはいえ、それが折れてしまうだなんて……。これが暗示しているのは……」


 抜けたわけでもなく、抜けなかったわけでもなく――折れてしまった。

 それは予想しなかった出来事だったのだろう。精霊竜は動揺している。


「やはりコイツ、危険ですよ!」


 ツノの少女が大剣を構えた。


「あの魔術師スセリが選んだ人間だ。やはりまともなヤツじゃなかったんだ」


 振りかぶった大剣を俺の脳天めがけて振り下ろす。

 俺はその一撃を折れた精霊剣で受け止めた。

 剣と剣がぶつかった瞬間、すさまじい衝撃が骨を伝って身体の芯をしびれさせる。

 すごい威力だ……。


「魔術師スセリは摂理を拒絶した人間。世界を滅びへと導く存在だ!」


 摂理を拒絶……。

 不老の身になったのを言っているのか。


「争ってはなりません。剣を収めるのです」

「あなたのお言葉でもそれはできません。コイツは死すべきです!」


 ツノの少女が力任せに俺をつき飛ばす。

 俺は後ろに吹っ飛ばされてしりもちをつく。

 再び大剣を振りかぶるツノの少女。


 ――アッシュさま!


 窮地に陥ったそのとき、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 プリシラの声だ。


 ――アッシュさまー、起きてくださーい!

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