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32-1

 その夜、夢を見た。

 正確には、夢の世界にいざなわれた――と言うべきか。

 気がつくと俺は白い空間に立っていた。


 正面には白い体毛を生やした竜――精霊竜。

 そのかたわらには、ツノを生やした少女が分厚い刀身の大剣を手に立っており、精霊竜の穏やかな目つきとは真逆に、俺をキッとにらみつけている。


「また会いましたね。アッシュ」


 精霊竜が聖母のようなやさしい女性の声でそう言った。


「先人たちが持て余した悪魔アズキエルを倒すとは、驚嘆に値します」

「あんなヤツ、私でも倒せました」


 ツノの少女がそう張り合う。


「あいつは『四魔』の中でも最弱。なにせ普通の人間にすら封印される程度だ。うぬぼれるなよ、アッシュ」


 四魔……?

 また聞きなれない言葉が彼女たちの口から出てきた。


「アッシュよ。あなたは四魔のうちの一体、悪魔アズキエルを退けました。これで四魔も残り三体……」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。四魔ってなんなんだ?」

「お前、そんなことも知らないのか」


 ツノの少女がバカにするような口調で言う。


「アッシュ。あなたは『魔王ロッシュローブ』を知っていますか?」

「魔王……ロッシュローブ……」


 それなら知っている。

 ロッシュローブは世界を滅ぼそうとした強大な悪魔だ。

 ……おとぎ話に出てくる。


「絵本に出てくる悪魔のことなら知ってるが……」

「魔王ロッシュローブは実在した悪魔です」


 そう言われても俺は戸惑うしかなかった。

 絵本に出てくる、勇者に倒される悪役が実在したと言われても反応に困る。


「はるか1000年の昔。魔王ロッシュローブはこの世界を滅ぼさんと、異界より降り立ったのです」


 そんな話、初めて聞いた。

 この話をスセリがしたのなら、冗談として聞き流していただろう。


「人間は魔王ロッシュローブとし烈な戦いを繰り広げました」


 100年にわたる戦いの末、人間は魔王ロッシュローブに打ち勝った。

 しかし、その代償として、戦いの舞台となった地上は荒廃し、文明は衰退し、ついには一度滅んだ。

 そう精霊竜は語った。


「ちょっと待て。古代文明が滅んだのは魔力をめぐる人間同士の争いだってスセリから聞いたぞ」

「それは魔王ロッシュローブが残した力を人間に与えぬため、我々精霊竜がつくった偽りの歴史」


 魔王ロッシュローブが残した力……。


「魔王ロッシュローブは人間の力により倒されました。しかし、強大な悪魔であるロッシュローブの肉体は滅びず、四つに分けられて地上に残りました」

「それが四魔なのか?」

「そのとおりです」


 魔王ロッシュローブの四つに分けられた肉体はそれぞれ自我を持った。

 そのうちの一体が悪魔アズキエルだと精霊竜は言った。

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